我々は日常生活において、雑音や残響の中で音声の聞き取りを行っている。特に、空港、電車、駅のホーム、カフェテリアなど、周囲に話し声や残響が蔓延している中で重要な情報を聴き取ることは、母語であっても困難となり得ることが先行研究で明らかになっている。このような現象は外国語学習者に特に顕著に表れ、また習熟度が上級レベルであっても聴取が困難であり、母語話者と同レベルの聴取が出来ないことが知られている。 本研究のテーマは、日本人英語学習者の雑音・残響環境下における英語の子音聴取訓練教材の開発である。その目的は、従来用いられてきた静かな聴取環境における聴取訓練に代わり、雑音や残響が存在する実環境により近い環境の中で学習者が英語を聴き取れるように訓練を行うことである。学習者はより実環境に近い環境で聴取訓練を受けることにより、英語を使用する場面でより円滑なコミュニケーションが可能になることが期待される。 研究期間3年間で、雑音・残響環境下における聴取実験を複数回行い、習熟度が劣悪な聴取環境における音声聴取にどのような影響を与えるか調査した。また、聴取実験には複数の聴取環境を用い、訓練実験に最適な雑音・残響量を確認し、実験参加者の英語習熟度別にデータ解析を行った。聴取実験の結果、日本人英語学習者が最も苦手とする英語の子音は摩擦音および接近音であることを確認したため、これらの子音を対象として雑音環境下における聴取訓練実験を行った。約2週間の期間中、訓練実験参加者は5回に渡る聴取訓練を自宅にて行った。訓練前・訓練後の正答率を比較した結果、実験に参加した学習者全員において英語子音(単音)の聞き取りが平均して訓練前の約65%から訓練後の約91%まで上昇することを確認した。
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