研究課題/領域番号 |
26580132
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
気賀沢 保規 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究員 (10100918)
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研究分担者 |
梶山 智史 明治大学, 文学部, 助教 (20615679)
櫻井 智美 明治大学, 文学部, 准教授 (40386412)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 巡礼 / 逃戸 / 房山石経 / 五台山信仰 / 唐宋変革 / 石刻資料 / 安史の乱 / 仏教石刻 |
研究実績の概要 |
唐代律令制下で土地に緊縛されていた農民は、8世紀半ばの安史の乱を境として中央の支配が緩み、社会の経済力が向上していく中で、国家の頸木をはずれて主体的に「移動」をし始め、唐朝の足元を掘り崩し、その結果が唐の滅亡と宋の興起という大転換につながった。 その見通しに立って、本研究では「移動」に直結する「逃戸」の事象を追いかける一方、従来無視されてきた仏教信仰の場における移動、すなわち「巡礼」という宗教的活動が活発化することに目を向けた。具体的には北京近郊の山中に残る「房山石経」の題記を整理し、50点におよぶ写真(拓本)と録文および解説を付した資料集を作成した。あわせて他の房山石経題記資料集を、大般若経・他仏典の2系統に分けて整理する作業もほぼ完了させた(これらは次年度に本研究の成果として公刊を準備中)。 「巡礼」は同時期の五台山信仰の場でも現れ、興味深いことに敦煌文書中にそれが確認できた。そこで敦煌文書中の五台山巡礼関係史料の把握に努め(当面資料5点を把握)、房山題記中の巡礼行動と重ねて唐代後半期の巡礼の様相と背景を考察する準備を進めた。 本研究では墓誌など石刻資料は貴重な材料となり、そのための収集、整理と考察は欠かせない。その立場から『東アジア石刻研究』第6号に資料整理の成果を公表する一方、『唐代墓誌所在総合目録』(新修版)刊行の準備を進め、4千点の新情報を得た。また『隋唐仏教社会の基層構造の研究』を刊行し、隋唐時代の仏教の社会的実相に踏み込んだ。 この他、1年余の準備の上に、12月に「『新中国出土墓誌』刊行20周年紀念日中合同中国石刻国際シンポジウム」を開催した。中国から故宮博物院の王素氏ら3名、国内からは5名が講演・報告し、石刻の意義を考える貴重な機会となった。これにあわせ、『『新中國出土墓誌』刊行20周年紀念日中合同中國石刻國際シンポジウム(研討會)論文集』を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では予定した形で研究・考察・資料整理を進めてきたが、本年度前半には氣賀澤(研究代表者)が中国清華大学の招きで講義に出張し、また研究分担者の櫻井智美氏が1年間の在外研究(台湾中央研究院)のために日本を離れ、研究活動に一定の遅れが生じた。また12月には「『新中国出土墓誌』刊行20周年紀念日中合同中国石刻国際シンポジウム」を開催し、貴重な研究報告と意見交換の機会になったと評価をいただいたが、中国側との連絡、会場設定、論文集の作成などの準備のために相当の時間を割くことになり、本研究の進行に少なからざる影響が出たことも認めなければならない。 また『唐代墓誌所在総合目録』(新修版)であるが、当初は年度内に完成させることを計画し、2015年中に中国で紹介された資料(資料集)を可能な限り収集して目録に反映させる準備を続けたが、中国側の資料集刊行の遅れや年末12月の日付での刊行の資料集の多さなどが関係し、年度内完成は断念した。なお参考までに、本目録(新修版)には前回に出したものから約4千点という新たな資料の追加が見込まれている。 唐代後半期の移動に関わる「逃戸」の問題でも考察が遅れている。その理由としては、「巡礼」をめぐる新たな課題、すなわち敦煌文書や五台山信仰などにより踏み込んで考える必要が生じ、研究の力点が巡礼問題に移った結果による。ただし逃戸問題は唐後半期を考える大きな課題であり、従来未着手状態にあったことは確かである。したがって次年度に唐後半期の逃戸動向を可能なかぎり系統的に整理するとともに、845年に頂点を迎える「会昌の廃仏」を誘発した要因の一つに逃戸および巡礼の問題が介在する、という見方を深くつき詰めてみる所存である。
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今後の研究の推進方策 |
8世紀半ばの安史の乱を境として、それまで律令制体制下で土地に縛られた農民たちの間から、その頸木を破って主体的に「移動」を始める機運が高まり、そのことが唐朝の基盤を掘り崩し、唐から宋への転換=「唐宋変革」を促した。本研究はそうした見通しの下、当時の農民たちの移動を端的に表す姿として、逃戸および巡礼という行動に着目し、まず房山石経に刻まれた膨大な題記の整理から「巡礼」の考察を手掛け、さらに対象を敦煌文書、五台山信仰の問題に広げてきた。 次年度は最終年次となるため、以下の仕事(資料の整理・考察)を進め、具体的な成果になるように努め、前年度までの遅れを取り戻す。 まず、房山石経中の「巡礼題記史料集」の公刊に力点を置き、写真(拓本)・録文に解説をつけて公刊する。また房山石経題記に関連して、「大般若経題記史料集」と「大型石経題記史料集」を同様の形をとって公表し、房山石経の社会史的意義を明らかにする。そのうえで“会昌の廃仏と巡礼および逃戸をめぐる考察”の集約に努め、従来十分に論じられてこなかった廃仏の社会的背景に踏み込む計画である。ついで敦煌文書・同壁画に見える巡礼の資料から、“五台山信仰と巡礼の考察”を進め、一本の論文に仕上げる予定である。 一方、石刻史料整理の一環として、「唐代墓誌所在総合目録」(新修版)を刊行し、1万2千点の墓誌の所在を提示する。さらに「東アジア石刻研究会」を7月下旬に開催し、報告要旨は「東アジア石刻研究」第7号に掲載する。本誌には他に、前年の故宮博物院との合同石刻シンポにおける中国側報告を翻訳掲載、また「宋元遼金の新出石刻資料目録」続編の掲載も予定する。最後になるが、明治大学東アジア石刻文物研究所がこの間収集してきた洛陽墓誌資料を、録文と写真(拓本)を並置した「明治大学所蔵唐代洛陽墓誌資料集」として公刊し、唐代社会を考察する手がかりとする計画も進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額であるが次年度使用額が生ずることになった。これには入手できた図書を充て、代金の差額分(超過分)は自己負担する予定で準備をしていたが、手続きが間に合わず、事務局の了解の上で次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越される額は少額であるが、これはすべて研究用図書費に充てることが決まっており、その図書資料もすでに確保されている。
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