研究課題/領域番号 |
26580138
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研究機関 | 弘前学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 克彦 弘前学院大学, 文学部, 研究員 (40569935)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 平玉 / 琥珀 / 制作実験 / 続縄文文化 / 玉作技術 |
研究実績の概要 |
本年度に実施した調査研究の主な内容は、1:北海道と東北地方北部(青森県、岩手県)の出土琥珀玉、琥珀原石の顕微鏡観察察とそれらの比較、2:各地域の琥珀玉細片の化学分析を行うためのサンプリング、年代測定、3:琥珀を利用した平玉の制作復元実験、4:続縄文文化の形成における琥珀玉制作の意義、役割を縄文文化と弥生文化の玉作技術の観点から比較研究すること、などである。 1と2について、北海道4遺跡、青森県5遺跡、岩手県5遺跡の琥珀玉および琥珀原石の顕微鏡観察を実施し、苫小牧市柏原5遺跡で糸切り痕のある琥珀玉の存在、北海道から出土する平玉と同じ形態の平玉は東北地方では弥生時代前期の青森県砂沢遺跡に1点だけで他に類例がないこと、北海道の平玉に使われた琥珀は札幌市N30遺跡から出土する平玉だけで釧路市幣舞遺跡の平玉、琥珀原石は現在知られている琥珀産地の琥珀と違うものであるることが判明した。多数の平玉片をサンプリングした。化学分析は有料なので、次年度のサンプリングと併せて次年度にFT-IR法等で分析することとした。年代測定を名古屋大学年代測定センターに依頼した(測定結果は次年度待ち)。 3について、ダマカスカル産琥珀を購入し、現代工具(切出しナイフ、砥石等)と石器(石箆)、鹿の角などを使って平玉制作復元した。その結果、平玉は現代工具では容易に整形、穿孔ができるが、石器、角、竹では非常に難しいものの時間と労力を度外視すれば出来ることが分かった。 4について、北海道では編年観が曖昧で、制作技法に関する情報が遺跡発掘調査報告書に記載されていないことが多く、確かな研究情報が実に乏しい。こういう状況を克服するために、現在まで北海道に出土している約5万点の琥珀玉の悉皆調査を行い一覧表作成、平玉の型式学的研究、縄文文化の玉作技術との比較研究などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅延の最大の理由は、平成26年7月に母が急病で危篤状態になり、介護、施設替えなどにより10月中旬まで琥珀玉の制作復元実験や資料調査が十分にできなかったことによる。松脂利用の琥珀玉の制作復元実験は寒い冬季には難しいので、天然琥珀を利用した制作復元に切り替えて現代工具を用いて復元実験を行い要領を掴んでから、石器、黒曜石、竹などを使って制作実験し数点を完成させた。固定装置、回転装置が無ければ不可能であること、一人ではほぼ制作は不可能であることなどが分かった。しかし、時間を度外視すれば全くできない訳でないという印象を持ったが、割れやすいため厚さ1cmが限度であった。平玉には5mm前後のものが多い。高度な玉作技術に違いないとしても、熟練度を要する、という印象を持った。 本年度は平玉の化学分析を断念したが、化学分析は有料なのでまとめて次年度に実施すれば経済的でもあり研究自体の進捗には特に支障がない。 続縄文文化の出自、形成に関する問題点、研究課題に関しては、①:縄文文化的要素を持つ遺物(縄文文化の玉作技術)、②:弥生文化的要素を持つ遺物(蓋形土器、砂沢式土器、T字孔管玉、エンタシス形管玉)、③:北方大陸的要素を持つ遺物(熊頭部石製品、石環など)について、次年度から具体的、詳細に検討する目途が立った。特に、①と②の玉作技術の比較研究として、平玉などの型式学的研究を行い、形態、穿孔技法の類型化を行い、基礎的な研究ができたと考える。従来の「稲作が伝播しなかったから北海道に続縄文文化が形成された」という定説的学説に対し抜本的に見直す、という趣旨は、ほぼ達成できると思われる。次年度から具体的に資料を検討し実証的に研究したいと考えるが、本年度はまだ基礎的な段階であり達成度としては十分と言い難く、全体として「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
琥珀玉の顕微鏡観察は、次年度まで継続して実施する予定である。次年度は化学分析などや岩石学者の協力を得て、琥珀玉の分析を行う予定である。 続縄文文化の出自、形成に係る従来の「寒冷地によって稲作が伝播、定着しなかったために北海道に続縄文文化が形成された」という定説的学説を抜本的に再検討し、次年度中に事例資料を挙げ、最終年度では具体的な検討成果を明らかにする予定である。しかし、北海道では従来の定説的学説が根強く、3ヶ年計画で何人が納得できる資料を如何に具体的に提示して問題提起できるかが課題となる。編年問題と北海道独自な熊頭部石製品に関しては協力を要請している。弥生文化的要素を持つ遺物についての実証的研究は、具体化できると予測している。弥生文化によるT字孔管玉、エンタシス形管玉が存在することの意義を考え、続縄文文化形成に稲作と違う側面の弥生文化の玉作文化の影響が認められると共に、東北地方の縄文文化の玉作技術が複合的に係わっていることなどを明らかにする。弥生文化の影響は東北地方より新しいと予測しているものの、北海道に確実に伝来している事実は重要であり、実態、伝来時期、歴史的な背景を明らかにする予定である。 これまでの調査により、「弥生文化(稲作)が波及、定着しなかった」という定説は変更されると確信している。水田跡は発見されていないが、定説を覆す傍証となる資料が判明しており、従来の続縄文文化史観は根本的に再考する必要があり、そのことを事実資料として明らかにする。北海道の諸遺物には隣接する青森県より弥生文化的、北方大陸的な文化的要素が認められる。その歴史的な背景に、当該期の北海道に顕著な土器型式の細かい地域差があると考えらる。一面的に「文化は南から」とだけ考えるのではなく北方少数民族の移動なども考慮するべきであることなども含めて、具体的に問題提起してゆきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
母の急病の介護により、夏季から秋季に予定していた連携研究者、調査協力員との打ち合わせ会議および北海道への資料調査の長期出張が思うようにできなくなったことが直接の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度中に連携研究者、調査協力員との打ち合わせ会議を開催し、そのための費用に充当する予定である。
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