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2015 年度 実施状況報告書

民族誌から読み解く土器型式変化の理論的研究

研究課題

研究課題/領域番号 26580139
研究機関早稲田大学

研究代表者

高橋 龍三郎  早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80163301)

研究分担者 大網 信良  早稲田大学, 文学学術院, 助手 (10706641)
平原 信崇  早稲田大学, 付置研究所, 助手 (60731180)
研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード伝統的社会 / 縄文土器型式 / 民族誌 / パプアニューギニア / 呪術 / 信仰 / 儀礼 / 土器製作技術
研究実績の概要

縄文時代の土器型式がなぜ一定の地理的分布域を形成するのか、またなぜ型式変化が惹き起こされるのかについては、考古学界では未だに明確な解答が得られていない。土器型式を成立させる人間の行動体系が明らかにされなかったことに原因がある。本研究では、過去にどのような縄文人の行動があったために、土器型式が成立したのかの社会的要因と背景を明らかにすること、また土器型式が変化する社会的背景について、その行動学的側面を現地の女性土器製作者の世界観や信仰から探るため、パプアニューギニアのイーストケープ地方に出かけ、民族考古学研究を実施した。
2015年8月8日から8月22日までの2週間を使い、助手および大学院生を引率してパプアニューギニア、ミルンベイ州、イーストケープのケヒララ村、トパ村に滞在し、村々を巡り女性土器製作者の聞き取り調査と観察を通じて、上記の課題について調査した。
イーストケープ地方の女性土器製作者には、誰もがその腕前を認める第一人者がいる。その老女D女史は、土器製作の優れた技術を高く評価され、自他ともに認める土器製作の第一人者である。彼女は土器の文様や装飾を自在に変えることができるのは自分だけだと豪語する。なぜ彼女だけが土器型式を変革でき、他の女性たちにはできないのか、また彼女に追随するのはなぜかについては全く不明であった。聞き取りを通じて彼女の持つ伝統的な世界観とか信仰が当該地域の社会の中で重要な意味を持っていることが予測された。それらは、伝統社会の中で保有され、外部には漏れにくい情報である。彼女は未開社会の原始的な信仰と世界観を知る第一人者であり、多くの女性土器製作者が彼女の土器型式変革に追随するのは、呪術や信仰、儀礼、祭祀などの伝統的世界観が今日でも生き続け、社会の中で重要な意味を持っているからであり、彼女はそれに関する知識の第一人者であるからだと予想された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、3年計画で実施しており、本年度調査はその中間に位置する。パプアニューギニアのミルンベイ州、イーストケープの滞在しながら、女性土器製作者の聞き取りを主に実施し、地域の大方の製作者に聞き取りを完了する段階にまで進展した。しかし、それは主に土器製作の技術的な話であったり、親族や婚姻についての事実関係を聞き出したにとどまる。
土器製作の第1人者と言われるD女史については、自らが土器型式を変革できると豪語する理由を直接聞き出すことができていない。それは彼女自身が他言を憚る何事かを秘めているからだと推察される。おそらく葬送儀礼や儀礼、祭祀に関する多くの専門的知識が、彼女とわずかな仲間だけに限定され、同じ地域の女性仲間といえども、他言できない知識だからと推測される。これらの情報は、本人からの聞き取り調査を通じても一向に明らかにできない領域なので、他の第3者を通じて聞き出すしかないが、未開社会の情報管理の厳格さなどを考えると、なかなか踏み込むことができない側面もある。
これからの調査でも、それらの機密と考えられる情報に関しては、十分に慎重に対応し、地域社会との無用な軋轢が生じないように配慮する必要がある。今までの調査ではそれへの配慮を怠ることなく、相互の信頼関係を構築することができたので、順調に進展してきたと言える。これからも信頼関係を損なうことなく、研究に必要な情報を収集することに努める。それには男のインフォーマントを雇用するなどの工夫が必要で、しかも彼自身い迷惑が及ばぬように配慮するつもりである。

今後の研究の推進方策

今までにイーストケープ地方の女性土器製作者にインタビューを繰り返し、多数の製作者から情報を収集した。技術的系譜と親族関係、婚姻記録に基づく通婚の実態について明らかにし、土器型式が成立する社会的背景を解明できた。この成果は日本の縄文考古学では実に大きな成果なので、今年中に成果を公表したい。また土器型式が変化するメカニズムと要因を解明できそうな状況にまで調査が進展した。その実態をさらに詳しく知るために今後も調査研究を続ける計画である。
土器型式が変化することを説明する上で、一人の製作者が関与することの背景を呪術や儀礼などの伝統的世界観と信仰に結び付けて理解することができたのは、上記の課題を論理的に説明する上で大変重要な成果であった。彼女は土器製作の第一人者である前に、伝統世界の呪術や儀礼、祭祀などに関する第一人者であり、特定集団の中で堅く秘匿された社会規範の番人でもあったわけである。これらに関して引き続き調査研究を継続する予定である。しかし、地域の伝統社会との関係で、結社内部に保有される重要情報を明らかにすることには相当の困難が予想されるので調査には慎重を期したい。彼女らの社会内部の機密事項であり、また個人情報に関わる部分も多い。これからの調査研究では合意を測りながら進めたい。
今までに分かった土器製作と型式に関する調査結果は、今までの縄文考古学では全く知られていなかった事実を明らかにしたものである。学説的にも多くの新たな証拠を示すものであり、考古学会に与える影響は実に大きいと推測される。したがって、今までの研究成果を雑誌論文として公表したい。また2016年8月28日~9月2日に開催される国際学会(WAC8-kyoto)で発表する予定である。WAC8-kyotoではすでに一つのセッションを認められており、当該研究に関して私自身の他に大学院生数名が発表することになっている。

次年度使用額が生じた理由

基金分において3205円の残金が生じたのは、パプアニューギニア現地調査における情報提供者への謝金が余ったからである。

次年度使用額の使用計画

2016年度では現地調査に集中するので、現地インフォーマントへの謝金として活用する計画である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 縄文後・晩期社会におけるトーテミズムの可能性について2016

    • 著者名/発表者名
      高橋龍三郎
    • 雑誌名

      古代

      巻: 第138号 ページ: pp75-141

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] パプアニューギニアにおける民族考古学的調査(12)」2016

    • 著者名/発表者名
      高橋龍三郎・大網信良・平原信崇・山崎太郎
    • 雑誌名

      史観

      巻: 第174冊 ページ: pp98 -119

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] パネリスト発表ー加曾利貝塚の埋葬犬と縄文社会―2016

    • 著者名/発表者名
      高橋龍三郎
    • 学会等名
      シンポジウム「縄文文化を世界から見る」 千葉市教育委員会主催
    • 発表場所
      千葉市学習会館
    • 年月日
      2016-02-27
    • 招待講演
  • [学会発表] 「特別講演 縄文中期社会と諏訪野遺跡2016

    • 著者名/発表者名
      高橋龍三郎
    • 学会等名
      」『縄文中期の大環状集落を探る』 埼玉県埋蔵文化財調査事業団主催、埼玉県教育委員会共催
    • 発表場所
      大宮ソニックシティホール
    • 年月日
      2016-01-17
    • 招待講演
  • [学会発表] 縄文社会の複雑化と民族誌―民族誌から見た社会の階層化、複雑化理論―2015

    • 著者名/発表者名
      高橋龍三郎
    • 学会等名
      国立歴史民俗博物館主催 第99回歴博シンポジウム『縄文時代・文化・社会をどのように捉えるか?
    • 発表場所
      明治大学リバティタワー
    • 年月日
      2015-12-06
  • [図書] 「縄文中期社会と諏訪野遺跡」『縄文中期の大環状集落を探る』2016

    • 著者名/発表者名
      高橋龍三郎
    • 総ページ数
      22
    • 出版者
      埼玉県埋蔵文化財調査事業団編

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公開日: 2017-01-06  

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