今年度は、ソウル(10泊)、香港(6泊)において現地調査を実施した。それぞれにおいて、大学、行政機関、関係NGO等におけるインタビューと資料収集をおこなった。また、関係者個人への集約的な実地調査とインタビュー等をおこなった。今年度は、本研究計画の最終年度にあたり、補完的な実地調査と調査結果の整理、分析に取り組んだ。 東アジアの都市社会で始まりつつある多文化主義的な運動・政策と幸福の変容との関係を主にマイノリティに対する聞き取り調査から明らかにし、そこに社会全体の矛盾と可能性が圧縮的に表現されているという仮設から、民族誌的な比較研究の新たな展開を探るという当初の目標を達することができた。幸福と多文化主義との関係を重層的に捉えながら、マイノリティはその社会の「不幸」を体現しているという確認にとどまらず、創造的な模索が幸福の将来を凝縮的に象徴しているという事実を具体的に検証することができた。当初の目論見と異なる点は、東アジアにおける現段階の多文化主義は、そのほとんどがナショナリズムの延長線上にあるという事実であった。ミクロな民族誌的視点から、経済的発展と幸福度の度合いがかけ離れている「東アジア的逆説」の謎を解くという問題設定については、すぐ答えが導き出せるものではないが、関わった専門家のすべてから深い共感をもって受けとめられたことを特記しておきたい。 各地域における専門家との関係を築き上げ、この問題についての国際共同研究の展望を確かなものにしたことは何より大きな収穫であった。
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