研究課題/領域番号 |
26580152
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研究機関 | 藍野大学短期大学部 |
研究代表者 |
高垣 政雄 藍野大学短期大学部, その他部局等, 教授 (70252533)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子炉の人類誌 / 科学人類誌 / コミュニティー / 新生復興 / 福島第一原発事故 / 帰還 / 被爆 / フィールドワーク |
研究実績の概要 |
原子炉とはなにか、科学者達が行ってきた文明への関わり、あるいは研究媒体としての放射線や放射能を使ってどのように文明に関わろうとしているのか、研究者自身の語り(ナラティブ)を分析、科学的実践み参与するなどで原子炉そのものを人類誌として記述し、原子炉を理解するという着想に至った。学振研究当初計画通り京都大学原子炉実験所共同利用研究として2014年,2015年,2016年継続採択され高い採択評価を頂いた。原子炉のリスク面としての福島第一原発事故調査を並行して行うこととした。被災によって[異文化]と化した低線量汚染した故郷への帰還に向けてのリスクとの共生と故郷新生の人類誌として、帰還する被災者が各自の共生~新生の文脈やシナリオにおける複雑なリスクの諸相、相貌を描くことが目的で原子炉人類誌の重大な章の一つとして予定している。フクシマでの被災者の被ばく線量数値と被ばく意識との乖離の原因を科学的実践を通して分析し、数値が意味するものはなにかを考察することで放射線や放射能と[共存]して行くための叡智を探ろうとするものである。しかし、被災地に人類学的研究手法を持ち込むことは困難、被災地を非被災地と相対化させて批判する視座が異なることで人類学的調査を困難にする。被災地を調査するのは時期尚早、被災者の心を傷つけるリスクが高く、倫理的問題もある。そこで、科学者たちの参与研究および自ら行う科学的実践を通して被災地に溶け込んで人類誌を記述するという方法論は被災地でのフイールドワークを容易にすることを明らかにし実践を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は当初の経過にしたがって研究者の言説を収集したほか、7月以降はほぼ毎月被災地福島を訪れフィールドワークを行った。主な調査フィールドは飯舘村、南相馬市の一部など主に除染による環境放射線の低減化により帰還困難区域から避難解除準備区域へと規制緩和(2016.07~)が予定されていて、大熊町や双葉町など立入禁止区域と避難解除区域とに挟まれた言わば多重接触領域である。この地域は概ね放射能レベルは2μSv/日以下で[許容]レベルであるが未だ山や丘など地形や治水によっては高い放射能が観測されるなど常時立ち入るのは困難なホットスポットの存在が住民の不安を煽っているもののそのレベルはいずれも[許容]されるレベルであるとされているなど科学的根拠がないとされる被災者の苦悩を分析しその所在について明らかにしつつある。また同じ避難解除準備区域であっても行政の対応の違いによる復興変容についても行政の長にインタヴューするなど情報を収集した。さらにフクシマでの被災者の被ばく線量数値と被ばく意識との乖離の原因を科学的実践を通して分析し、数値が意味するものはなにかを考察し放射線や放射能と[共存]して行くための叡智を探ろうとしている。被災によって[異文化]と化した故郷への帰還に向けてのリスクとの共生と故郷新生の人類誌としてまとめることで帰還する被災者が各自の共生~新生の文脈やシナリオにおける複雑なリスクの諸相、相貌を描くことは原子炉の人類誌のポイントとなろう。これまでの研究結果は日本文化人類学会第50回研究大会(2016.05.28-30、名古屋)およびWorld Professional Association for Transgender Health Symposium(2016.06.17-22、アムステダム)において発表する。
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今後の研究の推進方策 |
巨大地震、津波、原子炉事故、風評被害、さらには被災者のメンタルヘルス、育児、高齢化、生活習慣病、認知症などなど今後少なくとも~10年は重点事項としてin-traumaであり続けるであろう。①引き続き数多くの原子力研究者へのインタヴューを行い原子炉の人類誌を執筆する。②さらに原子炉のネガティヴなナラティヴとして引き続き科学的実践を通して被災住民に寄り添って語りを傾聴しコミュニティー新生~復興に貢献する。これまでのフィールドワークでもまさに立ち入ることが困難であった大熊町、双葉町など今後中間貯蔵施設として[封印]される文化・社会についても原子炉の人類誌として記述を残した考え。UNSCEARのウォルフガング・ヴァイスは2015年の京都大学での公演で次のように述べている。「福島第一原発事故の最大の障害は人々が科学や科学者に失望したことだ。この状態は長期にわたって人類に影響を与え、容易には打開できないであろう。科学者はそのような状況に対しても責任を負わねばならない。」原子炉の人類誌は、アクターとしての原子炉と人類のネットワークの善悪を教えることなではなく、信念を生み出すような種類の説得を作り出すことである。原子炉の事故は専門知を振りかざして短時間で解決すべきpoliticsな問題ではない。エネルギー源としての原子炉を危険なものとして廃棄するのであればエネルギーの議論が必要であり、一方エネルギー源としての必要悪を認めるなら危険性を引き受ける覚悟が必要だ。危険の理解には専門知は不可欠であり不合理の理解ではなく単に科学上の議論である。そこで本研究では原発事故後の被災者の混乱において科学者のネットワークの機能異常はなかったか科学人類誌としての参与研究を行い検証を行う予定である。
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