研究課題/領域番号 |
26590003
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
瀧井 一博 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (80273514)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 知識創造 / 帝国大学 / 国家学会 / 渡辺洪基 |
研究実績の概要 |
2014年度は4月から7月までアメリカ合衆国のハーバード大学に滞在し、同大での知識創造の実践についてフィールドワークを行った。また、ワシントンD.C.においても、議会図書館での資料調査やジョージタウン大学での日本政府からの官僚派遣プログラムについて聞き取りを行った。アメリカでの実地調査において、大学の専門分化を抑制し、学際的研究を行うプロジェクト重視の組織運営と人材交流について認識を深めることができた。 そこから、当初、近代日本の帝国大学創設期に同大初代総長の渡辺洪基によって推し進められた大学構想との異同について再検討する契機を得ることができた。調査の成果をもとに、8月以降、渡辺の評伝的研究の執筆を始めている。そこでは、萬年会、東京地学協会、統計協会などに結実された渡辺の明治初期の結社運動と学習院改革に傾注された穏健な行政志向の政治学校設立の試みの総合として、帝国大学とそこに設けられた国家学会の構想があったとの見取り図を示し、その実証に努めている。渡辺は大学を学識者と実務家との相互交流の場として構築し、国家の政策形成過程にも組み入れようとしていた。そのような大学構想は、アメリカのエリート大学の知識創造の実際と比較した時に、興味深い論点を提供する。そのような比較史的な考察も踏まえた渡辺論を今年度完成させる予定である。 また、知識国家論の歴史的前提を整理するために、明治国家の指導理念を思想史的に分析する論文をドイツ語にて作成した("Die drei Bismarcks von Japan")。現在、瀧井が編集者としてドイツにおいて刊行する研究論集"Staatsverstaendnis in Japan"にそれを掲載するべく準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記していたように、平成27年度中に日本における知識国家論の先唱者と目される帝国大学初代総長渡辺洪基について、その思想と生涯を実証的に解明する評伝研究を刊行する予定であるが、昨年度のうちに必要な資料調査を一通り成し遂げることができ、執筆に着手することができた。引き続き資料収集が必要な部分もあり、そのために若干執筆に遅れが生じているが、今年度内の完成は十分可能と考えている。 ドイツ語論集"Staatsverstaendnis in Japan"のほうも、原稿の取りまとめに遅れが生じているが、当初の刊行計画を大幅に見直すまでには至っていない。おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
また、知識国家とは、政治に内在する暴力を秩序化し解消する国家作用として観念することが可能である。この点は、近代化に突入し、既存の伝統的秩序の解体ないし動揺が将来された政治社会において、普遍的に問題化することができる。そのような社会ではいずこにおいても、政治的なテロ活動が盛んとなった。明治の日本も例外ではい。そのような政治的暴力の過激化を矯正する試みは、権力の内外で展開された。いわゆる藩閥政府のなかでは、岩倉具視、木戸孝允、大久保利通による初期の政権運営はそのことを強く意識したものだったと考えられ、また明治中期以降では、星亨によって、自由民権運動という反政府運動が内部改革のかたちで体制内化していくが、それは星の独特な政治思想の発露であり、まさに知識国家的な構想と評価できるとの感触を抱いている。 以上の二つの側面から知識国家論の歴史的かつ理論的内実を緻密化するかたちで今後の研究を推進していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は主としてアメリカにおける実地調査に主眼を置いていたため、資料整理のために確保していた人件費・謝金がそれほど必要ではなかった。また、物品費の購入も当初の計画よりも若干抑制することができた。しかし、全体的な研究計画のなかでは必要な経費であるので、本年度以降に有効に費消していきたい。
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次年度使用額の使用計画 |
明治期国家指導者の未収集文献の収集に努める。また、これまで収集した資料の整理を本格的に開始する。そのための謝金に使用する。
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