研究課題/領域番号 |
26590011
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (80226505)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | セクシャルマイノリティ / LGBT / 同性婚 / 多元的家族 / 婚姻 / 性指向 / 台湾法 / 民法改正 |
研究実績の概要 |
台湾については同性家族の法的保護についての立法化動向に関して集中的に調査を行った(2014年10月)。台湾の立法院では現在、二つの同性婚法案が審議中であり、両案を提案した立法委員、蕭美琴氏、尤美女氏、3つの民間版民法改正草案(2013年10月3日)を作成した社団法人台湾伴侶権益推動連盟の許秀ブン弁護士(同連盟執行長)に対するインタビュー調査を行い、法案提案に至る経緯、背景、意図、審議における社会的反響、今後の採択への展望などについてインタビュー調査を行った。 その結果、①同性婚法案の提起は2006年に始まっているが、国民党などの抵抗のために正式審議に入ることができなかったこと、②2013年に審議に入り、公聴会を開くなどした結果、宗教界など反対派の関心を引き、国民的な議論の焦点となったこと、③同性婚法案を推進する立法委員は、法律上、同性間の婚姻を禁止することは、結婚自由、家族を形成する権利に対する制限であり違憲であると主張していること、④今回のふたつの法案は今年末の立法委員改選を控えて、審議が進まないことが予想され、採択される可能性は低いことなどが明らかとなった。他方、司法におけるうごきとしては、⑤同性間の婚姻登記の受付を拒否した戸政事務所(行政機関)を相手に、その不服を訴え、同性間の婚姻の承認を求める訴訟が何度も提起されているが、いずれも同性婚を認めないことが違憲とは言えないとする判決が下されている(最高行政法院2014年9月25日判決など)こと、⑥大法官会議に憲法解釈が要請される見込みであることが明らかになった。 中国についてはセクシャルマイノリティの権利状況に関する文献収集を進め、同性愛者のためのサイト“淡藍”の主催者と連絡をとり、来年度以降の調査のための準備を進めた。 「体制転換と法」研究会(北海道大学、2014年11日15日)において中間的な報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた台湾での立法委員および同性婚法案作成を推進した有力NGOの主催者へのインタビューを行い、法案提起の歴史的背景、意図、審議状況、社会的反応、今後の展望などについて概況を把握し、関係する資料の収集を順調に行うことができた。 今年は幸い台湾におけるセクシャルマイノリティ運動の関係者とのネットワークに入ることができたので、今後の研究進展に足がかりができた。台湾社会では多元化した家族を法制化することをめぐっては激しい対立が続いており、法案が正式に審議に入ることによって、逆に反対派を勢いづかせ、社会的に注目を集めるテーマになっていることを把握した。さらに、この運動自体、個人による訴訟の提起や長年の女性の権利獲得運動など、多くの社会運動が合流した結果であることも明らかになった。これは中国や日本におけるセクシャルマイノリティの法状況を考えるうえでも有益な視点となった。 中国については今後の研究のための準備をした段階であるが、今年度に予定していたことは終えることができた。 日本についても、同性婚法制化運動を進めるEMA(Equal Marriage Alliance)日本の寺田和宏理事長、LGBTの権利運動に長年取り組む上川あや東京都世田区議会議員へのインタビューを行うなど、最新状況の把握に努めた。2015年3月31日には東京渋谷区において「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が採択され、日本でも同性カップルの公的承認が具体的な実現を見るなど、本プロジェクトのテーマは社会的関心を集めるようになったことも、幸いであった。 以上のような状況から本プロジェクトはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は台湾での同性婚法案審議および同法案をめぐる各界での議論、論拠の整理、各陣営へのインタビュー調査などを継続するとともに、同性婚訴訟の当事者へのインタビューを行い、台湾で進む立法ルートと司法ルートの相互関係を把握する。 中国においてもセクシャルマイノリティの権利運動にかかわるNGO関係者、研究者へのインタビューを行う。具体的には、同性愛者のサイト淡藍の主催者、同性愛研究の第一人者で同性婚法案を提案したこともある李銀河氏(中国社会科学院社会学研究所)、LGBT問題で積極的に発言を続ける張北川氏(青島大学教授)を予定している。 日本でも渋谷区で「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が採択されるなど、LGBTの権利保護をめぐるうごきに急進展が生じており、本プロジェクトでは最終的に台湾や中国の実践、動向から、日本への示唆を引き出すことを目的としていることから、日本の状況把握にも努めることとする。渋谷区での条例制定を推進した桑原敏武・元渋谷区長、長谷部健区議、世田谷区で同様の同性パートナー証明の発行を進めている上川あや区議などへのインタビューを予定する。 台湾、中国、日本のLGBT法制に関する資料、文献、情報収集、分析を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年3月に中国法関係書籍および若干の文具の購入を行ったが、これらにかかる支出につき会計処理の都合上、3月中に予算執行が間に合わなかったため、平成26年度研究費に75,134円の余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
年度内に支払われなかった上記物品購入にかかる経費に、平成27年4月にこの分を充当して、直ちに予算を執行する。
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