研究課題/領域番号 |
26590011
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢 明治大学, 法学部, 教授 (80226505)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 台湾法 / 同性パートナーシップ / 性的マイノリティ / LGBT / マイノリティの人権 / 同性婚 / 性的指向 / 性自認 |
研究実績の概要 |
1 台湾と日本の同性パートナーシップ制の地方自治体における普及拡大の比較検討を行った。台湾では2015年に入り高雄市を皮切りに、台北市、台中市、新北市、台南市、嘉義市、桃園市へと瞬く間に広がり、2016年4月以降、彰化県、新竹県、宜蘭県へと拡大した。総人口の8割が居住する自治体で「同性伴侶註記」が始まった。日本でも同年、東京都渋谷区、世田谷区で同性パートナーシップの関係証明書ないし宣誓書受領証の発行が始まる。2016年に入り、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市へと広がり、沖縄県那覇市でも実施を準備しているが、日台の普及のテンポには大きな開きがある。 2 日台で同時期に始まった同性カップル公的認証は、いずれもほとんど法的拘束力をもたない象徴的な意義しかない制度であるが、日台両国で性的マイノリティに対する政治的、社会的な承認効果を発揮し、制度の外へとインパクトが広がっている。2015年9月下旬の台北同志遊行に併せて訪台し、同性婚運動を推進するNGO同性伴侶権益聯盟、同性伴侶註記を受け付ける台北市中正区戸政事務所を訪問し、制度導入の背景をさぐるとともに、制度運用の現場を視察し、状況の把握に努めた。台湾では2016年5月時点で全国9自治体で約700組のカップルが戸籍情報への註記を済ませた。 3 台湾では近年、性別平等教育法(2003年)、性別平等就業法(2007年)、介護サービス法(2015年)などに明文で性的指向による差別を禁じる規定が置かれるなど、性的マイノリティの法制度化が始まっていたが、同性パートナーシップの地方自治体における承認はその延長線上にある。性的マイノリティの存在を政治的に不可視化し、ネガティブにもポジティブにも制度化をしてこなかった日本にとって、同様の状況にあったにもかかわらず、日本に先行して性的マイノリティに肯定的な方向で制度化を進める台湾の事例は示唆的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 文献調査、訪問調査によって、台湾10都市における同性パートナーシップ制の内容、手続、効果、運用状況について初歩的に比較検討を終えている。 2 日本との比較の視点をふまえて本研究の中間的成果を、北海道大学文学研究科応用倫理教育研究センター主催2015年一般公開フォーラム「同性パートナーシップ制度導入を考える:私たちの街づくり」(2015年11月22日、北海道大学学術交流会館)および中国南京師範大学開催の国際シンポジウム「区域ガバナンスと法治の発展」(2016年4月24日、南京国際会議ホテル)で報告し、さらにバージョンアップしたものを比較法学会第79回総会ミニ・シンポジウム「東アジアとロシアにおける性的マイノリティをめぐる法の現状」(2016年6月4日、関西学院大学)で報告することになっている。 3 台湾における同性愛者の人権研究の第一人者である張宏誠氏との定期的な協力関係を築くことができたことは、本研究プロジェクトにとって大きな収穫であった。張氏はヨーロッパでの長年の留学を経て、現在、司法院大法官の調査官を務めながら、台湾大学法律学院博士課程で同性婚についての比較研究を行っている。現在、日台の同性パートナーシップ制の比較研究にも従事しており、随時、情報交換を続けている。今後の研究の進化にとっては重要な手がかりを得た。
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今後の研究の推進方策 |
1 台湾における同性間に法的家族を開放することに反対するキリスト教会をはじめとする勢力の言説に対する掌握、分析にはまだ十分手が着いていない。これについては、次年度において文字文献の収集、解析、当事者へのインタビューを実施することを予定する。 2 台湾における性的マイノリティ法制化のモデルチェンジを促すメカニズムについて、法理論的、社会文脈的に解明することを目指す。台湾において何が不可視化モデルからポジティブ承認モデルへの転換が起きたのか、それを促した要素を析出させることで、同様にモデルチェンジの入り口に立つ日本への理論的、実践的示唆を引き出したい。 3 中国における性的マイノリティの法制化についての状況はまだ十分ではない。中国には立法面ではまだ目立った動きは現れていないものの、すでに性同一性障害の当事者からの就業差別を告発する訴訟(貴州)、同性婚の登録を拒否された同性カップルによる訴訟(湖南)が提起されている。後者はすでに敗訴が確定しているが、訴訟提起により社会的関心、公共的議論が巻き起こっている。次年度はこうした訴訟の当事者や研究者、支援者へのインタビューなどを行って、訴訟提起の背景、裁判官の対応、社会的影響について理解を深めたい。 4 これまでの研究で得られた知見を統合して、最終的な成果として論文にまとめることを予定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた2回目の台湾での現地調査が調査先のスケジュールの都合で延期となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越して予定の現地調査を実施する。
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