儒教的家族倫理のもと強固な異性愛主義が支配していた台湾は、日本と同様、従来は性的マイノリティに関して一切の法制度をもたない非制度化モデルにあった。しかし、2000年代に入り、性的指向、性自認による差別禁止を明記し(性別教育平等法2004年、家庭暴力防治法2007年、性別就業平等法2008年)、戸籍上の性別変更を認める行政通達を出す(2008年)。同性間にも婚姻を求める当事者による請願や訴訟が1986年から繰り返し提起されながら、裁判所はこれを認めてこなかった。2006年に立法院に初めて同性間にも婚姻を認めるための民法改正案が上程され、その後、2012年、2016年と3度に渡って法案が審議されている。現在、立法院における審議が大詰めを迎えている。 他方、2015年以後、高雄市を皮切りに同性パートナーシップの戸籍註記制度が始まり、瞬く間に全国11都市(全人口の82%)に拡大し、約1800組の同性パートナーが登録を済ませるに至っている。地方から中央を取り囲み、制度化に圧力を加えている。こうしたなか2017年5月24日には司法院大法官が同性間の婚姻を認めない現行法についての違憲性の有無の判断が下されることになっている。 こうして台湾は同性婚承認の目前にまで至っている。国内には反対派も強硬姿勢を強めており、なお予断は許さないものの、アジアで最初にこのゴールを切ることが確実になっている。台湾は非制度化モデルから権利保障モデルへの転換を日本に先駆けてやり遂げようとしている。 このように速いテンポで性的マイノリティの権利保障が進もうとしているのは、台湾が戦後、国民党一党支配のもとで長い間人権抑圧が続き、人々に人権への希求が強いこと、女性運動のなかでLGBTの課題が従来から重要な部分を占めていたことなどによると考えられる。
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