本研究は、気候変動リスクに対処する「保険」という手法の開発と利用の実態をふまえ、その特質、課題を実証的に明らかにすること、加えて、油による海洋汚染といった、環境保護目的で保険という手法を利用する他の分野の利用事例と比較検討することにより、気候変動リスクに対処する保険特有の特質と課題は何か、その活用のために必要な国内法政策が何か、各国国内での活用を支援する国際法政策が何かを明らかにすることを目的とする。 平成28年度、平成29年度も、気候変動リスク対処に保険という手法が利用された事例の収集を行い、それに基づいてかかる保険の特質と課題の検討を進めた。インド、タイ、インドネシアなど特にアジアの途上国を中心に、干ばつなどの異常気象による農家の収入減少リスクと緩和する天候インデックス保険の開発・普及が進んでいる。一定の気象データの基準に基づいて損害への支払いを行う天候インデックス保険は、手続の簡素化・迅速化により途上国の農家の収入減少へのレジリアンスを高める効果がある。他方、保険開発のために必要な気候変動の影響に関する観測、予測のデータなどの入手可能性などの課題がある。気候変動リスクも、蓋然性と悪影響の大きさなどによって分類することができるが、いかなるリスクに対して、保険という手法がリスク対応手法として効果をあげるのか、その条件は何か、他のリスク対応手法といかに組み合わせることでレジリアンスを高めることができるのかなどについても検討を行った。 パリ協定の前後から始まった、途上国で生じる損失と損害に関する国際交渉において気候変動リスクに関する保険制度に関する検討、2015年に始まったG7の気候変動リスク対応の保険イニシアティヴといった国際的な制度・イニシアティヴとその進展についても検討を行った。
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