研究課題/領域番号 |
26590013
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小島 立 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (00323626)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 知的創作物 / コミュニティ / 慣習 / 規範 / コモンズ / 現代アート |
研究実績の概要 |
知的創作物の創出に関する「地域コミュニティ」のあり方について、伝統的祭祀、「フォークロア」、伝統芸能などの「伝統的文化表現」や、「現代アート」などを素材に検討を行った。 伝統的文化表現や現代アートなどについては、単に知的財産権による法的保護を検討するのではなく、その背後にある「地域コミュニティ」を視野に入れる必要がある。伝統的文化表現は、いわゆる「地方」に多く存在するが、そこでは近時、例えば「限界集落」の問題がクローズアップされている。限界集落では「共同体(コミュニティ)」の持続可能性が失われつつあり、そこで培われた民俗芸能などの伝統的文化表現が消失する危険が生じている。 この問題は、東日本大震災後の東北地方の地域コミュニティの紐帯を考える上で、特に重要性を増している。また、本年4月に発生した熊本地方・大分地方での震災についても、今後、伝統的文化表現を被災したコミュニティにおいて、どのように後世につないでいくのかという問題が生じることが考えられるため、今後の動向を注視していきたい。 これらの問題に対する制度的支援は、地域コミュニティの持続可能な発展に資する形でなされなければ、有意義な結果をもたらさない。この点で参照されるべきなのが、現代アートにおける「アートプロジェクト」である。「アートプロジェクト」は、過疎地域におけるコミュニティの活性化を促す起爆剤として注目されるが、その背景には、現代アートの特徴の1つである「サイトスペシフィック」性が、コミュニティの存立基盤の再検討を促す契機となることが挙げられる。 本研究では、伝統的文化表現や現代アートに関係する様々なアクターの配置や相互関係についての分析を通じて、それら「地域コミュニティ」の「慣習」や「規範」のあり方について検討し、当該コミュニティの持続可能性を維持できるような形での制度的支援の可能性について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「コミュニティ」に関係する論稿を発表できたほか、伝統的文化表現や現代アートについての現状を把握するための実態調査も実施することができた。最終年度に当たる平成28年度の研究の進め方についても見通しが立っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、「コミュニティ」の果たす役割について、学際的「コモンズ」研究との接合を目指す。本研究は、近時の学際的な「コモンズ」研究における知見を参照し、知的創作物の創出における「コミュニティ」と、そこでの「慣習」や「規範」の果たす役割についての理論研究を進めたい。 また、「コミュニティ」の「慣習」や「規範」の妥当性や適用範囲という問題は、複数の規範が適用可能な状況のもとで、どの規範を適用することが社会的に望ましいのかという「法抵触」の現われでもある。グローバル化とともに、「多元主義」や「文化多様性」などの問題がクローズアップされる現代において、「いかなる規範が、いかなる範囲に属する主体に対して、いかなる局面において適用されるべきであるか」という抵触法の問題設定は、国内外においてアクチュアリティを増している。本研究は、これらの文化論を踏まえた近時の法学研究の知見も視野に入れつつ、分析を行う予定である。 本年度は、研究の最終年度である。個別テーマの研究に加え、本研究のまとめも同時に行う。そこでは、個別研究で扱った知的創作物に関係する様々なアクターの社会的ネットワークや相互関係を明らかにし、知的創作物の創出における「コミュニティ」の「慣習」や「規範」の位置づけを行うとともに、その作業を踏まえ、多様な知的創作物が創出される環境を整備するための社会の関わり方を探りたい。そして、「多元主義」や「文化多様性」が叫ばれる現代社会で必然的に生じる「規範の抵触」を解決する思考枠組みの提供を目指したい。
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