平成28年度は、「コミュニティ」の果たす役割について、学際的「コモンズ」研究との接合を目指した。本研究においては、近時の学際的な「コモンズ」研究における知見を参照し、知的創作物の創出における「コミュニティ」と、そこでの「慣習」や「規範」の果たす役割についての理論研究を進めた。 また、「コミュニティ」の「慣習」や「規範」の妥当性や適用範囲という問題は、複数の規範が適用可能な状況のもとで、どの規範を適用することが社会的に望ましいのかという「法抵触」の現われでもある。グローバル化とともに、「多元主義」や「文化多様性」などの問題がクローズアップされる現代において、「いかなる規範が、いかなる範囲に属する主体に対して、いかなる局面において適用されるべきであるか」という抵触法の問題設定は、国内外においてアクチュアリティを増している。本研究は、これらの文化論を踏まえた近時の法学研究の知見も視野に入れつつ、分析を行なった。 また、平成28年度は、本研究の最終年度であった。したがって、個別テーマの研究に加え、本研究のまとめも同時に行なった。そこでは、個別研究で扱った知的創作物に関係する様々なアクターの社会的ネットワークや相互関係を明らかにし、知的創作物の創出における「コミュニティ」の「慣習」や「規範」の位置づけを行うとともに、その作業を踏まえ、多様な知的創作物が創出される環境を整備するための社会の関わり方を探った。そして、「多元主義」や「文化多様性」が叫ばれる現代社会で必然的に生じる「規範の抵触」を解決する思考枠組みの提供を目指した。
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