離散選択モデルは、交通需要予測、産業組織論等で幅広く用いられているが、離散選択モデルと通常のミクロ経済学の効用最大化問題との関係は完全に明らかになっているわけではない。例えば、離散選択モデルでケチャップの選択を考えた場合、典型的なモデルでは「ブランドAのケチャップを1個選択」「ブランドBのケチャップを1個選択」「買わない」という3つの選択肢の中から、消費者が1つの選択肢を選ぶと仮定される。この離散選択モデルでは、それ以外の財、例えばマヨネーズの選択に関しては何ら触れられない。また、なぜ消費者が「1個」を選択するのかも説明されない。一方、通常のミクロ経済学の効用最大化問題では、すべての財の選択を内生化することができ、そこでは複数個の財の選択も自由である。本研究の目的は、通常のミクロ経済学の効用最大化問題と離散選択モデルの完全な対応関係を明らかにすることである。 平成27年度は、第一に、平成26年度の研究を発展させ、ロジットモデルと完全に整合的な効用最大化問題の特徴を、弾力性、余剰計算の点から明らかにした。特に、各財が補完的になりうることを弾力性を使って示したことや、実務でよく用いられるログサム変数を用いた余剰計算の意味を明らかにし、さらに、総需要が変化する場合でも適用可能な方法を導出したのは、本研究の主要な理論的貢献である。第二に、GEVモデルや混合(ミクスト)ロジットモデルと完全に整合的なミクロ経済学の効用最大化問題を定式化し、その特徴を、間接効用関数の形状、弾力性、余剰計算の点から明らかにした。それらの結果は、おおむねロジットモデルの結果を拡張したものになっている。第三に、これまでの成果を取りまとめて論文にまとめた。
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