平成28年度は、これまでに行ってきた文献研究を継続し、特にロンドンの英国公文書館にて、昨年度に引き続いて価格移転取引(International Transfer Pricing)についての政府政策文書と、外資企業による自国企業の買収に関する政策文書の収集を実施した。さらに、イギリス政府の政策が多国籍企業の展開をどのように捉え、それにいかに対処してきたかを、自動車産業を中心に史料収集することができた。 これまでのこうした情報の予備的考察を、9月にチェコで開催された経済・経営関連の国際学会で発表し、多くのコメントを得ることができた。この学会の報告は、平成27年度の期間中にオックスフォード大学で開催された世界経済地理学会で発表した内容をアップグレードさせたものとなっている。 また、平成27年度中に本研究課題と関連した内容のペーパーが、Springer International Publishing-Palgrave Macmillan社より出版されたGlobal Innovation and Entrepreneurship: Challenges and Experiences from East and Westに所収された。他にも、本研究課題の知見を活用した成果物を出すことができた。 【全研究機関と通じて】本研究課題の申請時の計画にもあったように、その分析視角の中心はグローバル化した経済活動における企業と国家の役割の変遷である。これに関しては、特にアジアにおいてはこれまでの地域統合枠組みの設定などといった政府の役割が、今日の実際の企業の国際展開の実態からみれば、大きく変化しつつある可能性が明らかとなった。特に諸々のFTAやEPAなどといった地域統合枠組みの影響が、国家の中の企業や雇用に、グローバル・バリュー・チェーンの展開以前の状況とかなり変容してきたことが分かった。
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