最終年度である平成28年度においては、理論構築的側面については、言語学・認知言語学と組織行動との融合を通じた、異文化組織行動論を構築するに至るフレームワークの形成を試み、実証的側面については、先行する実証調査の分析および論文化を行い、国際学会等で報告した。 理論構築的側面については、ミクロレベルの組織行動論に関連して、個人の行動やチームの生産性がいかなる形で言語の影響を受けるのか、そして、ブリッジ人材と呼ばれる複数の文化や言語に精通した人材がいかなるかたちでチームメンバー間の言語コミュニケーションを円滑化しチームの生産性に寄与するのかについての理論的下地を形成させ、成果の一部を国際学会での発表や、国際ジャーナルでの論文掲載に生かした。また、マクロレベルの組織行動論に関連して、個人やチームを取り巻く組織文脈の理解、および組織の行動を理解するための組織を取り巻く文脈の理解における言語の重要性に着目し、それに関連する要素として、組織内外の制度ロジックやボキャブラリー構造、ナラティブやメタファーの役割等、言語と深い関連のある諸概念を統合することによる理解の促進を図った。研究期間全体を通じて、組織行動論に言語学・認知言語学的要素を加えた異文化組織行動論の構築は完成に至ったわけではないが、今後の当該分野の発展に向けて一定の道筋を作ることができた。 実証的側面については、外国語使用がチームの生産性や創造性にもたらす影響や、日本の職場で働く外国人の言語状況と組織行動上の特徴についてのデータ分析および論文化を行い、一部は国際学会において発表され、完成論文をジャーナルに投稿した。平成28年度も、日本で働く外国人を対象とした調査の改善と拡充を目的とした新たな調査を設計し実施した。研究期間全体を通じて、異文化組織行動論を実証的に検討するための方法論の確立に向けた成果を挙げることができた。
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