研究実績の概要 |
平成28年度は、前年度までに実施した調査の結果をとりまとめて審査制学会誌へ投稿し、改訂作業を繰り返した。関係する先行研究のサーベイから、本研究の理論的な位置づけを確認した。 独立開業がひとりの英雄よりもむしろ社会的評価を背景とする集団的な営為(チーム)によるものであるという見方に立つなら、新ベンチャー・チームに対するインプット-媒介-アウトプットの分析枠組み(Klotz, et al., 2013, p. 230)における「媒介」(Mediators)が本研究の主な対象となる。こうした「媒介」を対象とした研究領域には感情(愛憎)が惹起される事象を節目に人の態度が変化するとみるAET(affective events theory)ならびに社会ネットワーク理論がある。これらによれば独立開業ないし起業の過程は次のように描かれる。 すなわち、感情面における正の変化が生じると潜在的な起業者の見方が一変し、その後、感情面の起伏を伴いながら経験を積み重ね、しかも必ずしも直線的には進展しない。早晩、物的資源の獲得と相俟って、いわゆる懐妊期を経て、潜在的な起業者の顕在化に至る(Morris, et al., 2011)。 しかし、特定のどの相手とのどのような相互作用が後押し(支援)となって潜在的な起業者(アクター)の正の感情の高まり(愛情)が惹起され、あるいは諦めの境地が克服され、他方で経営資源がいかに束ねられていくのか。AETを背景とするこういった一連のメカニズムの解明は仮説段階にとどまっている(Klotz, et al., 2014, p. 248)。 本研究が提供する調査事例はそのメカニズムの解明に貢献するものである。
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