研究課題/領域番号 |
26590072
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
古川 澄明 山口大学, 経済学部, 教授 (10148992)
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研究分担者 |
三木 奈都子 独立行政法人水産大学校, 水産流通経営学科, 教授 (90416454)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 卸売市場 / ふぐ / 卸売流通 / 仲卸 / アセアン市場 / フグ養殖 / 下関 / 築地 |
研究実績の概要 |
【目的】日本特有の発展を遂げてきた「フグ・ビジネス」が、アセアン地域に新販路を開拓する模索を始めている。それが地方水産物流通の海外での新しい流れを切り開く可能性に繋がるのか否かを、独自視座から検証することが、研究の目的であった。【斬新な視座】東南アジア日系産業集積地の急成長という視座から、当該新販路を開拓できるような条件が生まれているのか否かを解明することであった。【挑戦的仮説検証】①フグ業界が販路開拓に期待感を膨らませる背景に、日本産食材需要(市場)の出現があり、アセアン経済の成長を担う日系産業集積地の急成長がその下地である。②日系企業のアジア集積は、その先進工業力の現地化だけでなく、日本の地方食材産業をも巻き込んでアジア販路開拓へと突き動かすような、新しい日本産食材市場ダイナミズムを生み出している。以上のような、研究目的と視座から、仮説検証に取り組んだ。アセアン市場を対象とする調査については、シンガポールに2回、及び、マレーシアに1回、現地調査を実施した。また国内については、築地市場、下関南風泊市場を対象にヒアリング実施した。次のような成果を得た。
(1)「フグ・ビジネス」のアセアン販路については、輸入国側の食品衛生行政の違いにより、販路形成に相違がある。タイはフグ輸入禁止。シンガポールはAVAにより限定部位の輸入を認可している。マレーシアは輸入を認めている。 (2)日本側厚生労働行政がフグ除毒処理及び食品安全衛生行政の面で、国としての統一制度を備えていないことが輸入国側との貿易障壁となっている。とくに、フグ除毒処理士国家資格の未整備やフグ食安全管理行政の都道府県別取扱いの差異の存在がアジア市場開拓を妨げている。 (3)アセアン市場における日本食材への高い需要や日本レストラン・ビジネスの拡大の中、西日本地場産業であるフグ・ビジネスの海外展開には、制度的な障壁が存在する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、東南アジア日系産業集積地の急成長という視座から、日本製食材市場や日本レストラン・ビジネスの急速な拡大に伴って、西日本地方産業であるフグ養殖生産及び卸売取引ビジネスについても、新販路を開拓できるような条件が生まれているのではないかとの仮説を検証することであった。次のような成果(結論)を得た。
(1)アセアン・フグ・ビジネス市場については、所期の目的をほぼ達成できた。フグ・ビジネスという特殊な地方ビジネスには、国家間食品安全衛生行政の交渉を進めるにあたって、日本の食品安全衛生制度改革及び輸出促進支援策を必須としていることが判明した。 (2)アセアン・フグ・ビジネス市場の障壁は、日本側のフグ食品安全衛生制度が生み出していることが判明した。例えば、シンガポールが設ける食品安全衛生行政から見て、日本側はシンガポールの制度を満たせる制度的条件が欠如しているのでばないかと思われる。 (3)卸売市場流通といった経済的側面については、地方魚ビジネスを取り巻く国際的な物流・情報・取引関係環境の変化が旧来の卸売流通システムに強い影響を及ぼしていることが判明した。その意味では、地方卸売流通システムの国際市場競争への適合なくして、地方魚ビジネスの未来はないのではないかといった状況を研究成果として確認できた。 (4)本現地ヒアリング調査においては、JETROとの調査連携、及び、フグビジネス業界関係者の研究協力により、予定通りに、貴重な知見をえることができた。これも本研究の特徴であり、順調に研究成果を得られた理由であるので、特筆しておくこととする。以上の点において、概して、所期の目的を順調に達成している。
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今後の研究の推進方策 |
アジア和食・和食材市場の中でも、とくに巨大市場である香港市場への調査を平成28年度に繰り延べたので、平成28年度に現地ヒアリング調査を実施する。また本研究は、次の挑戦的萌芽研究へ進化発展させる予定である。すなわち、本研究の成果を、挑戦的萌芽研究課題「アジア和僑ビジネスと日本の地方農水産業:国際ロジスティックス・ネットワークの併呑」(研究期間:2016年4月1~2019年3月31日)に継承して、研究を深化させる予定である。
因みに、本研究では、研究方式として、JETRO(業界支援機関)・業界・学術の三位連携調査方式を採用し、深層情報収集に高い効果を上げた。このヒアリング方式とは、「産学Win-Win(学術聴取・商談融合)方式」(古川呼称)=日本側出荷業者・学術の互恵連携方式をである。この方式により、日本側出荷業者及び現地取引先の深層情報収集を行うことができた。引き続き、この方式を採用することで、研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はフグ業界の協力なくして精緻な成果を達成できない。延長の2つの理由:(1)当初の計画では、2月~3月に香港調査を予定していたが、2月~3月期はフグ業界の繁忙期であり、業界研究協力者から4月以降への延期を要請された。(2)27年11月以来、香港側調査相手とのヒアリング受入を交渉してきたが、1月末、中国旧正月の始まる2月に3月日程調整が困難との理由から、4月以降のヒアリング受入を求められた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度において、調査旅費に使用する。ちなみに、ヒアリング方式として「産学Win-Win(学術聴取・商談融合)方式=日本側出荷業者・学術の互恵連携方式(「研究方法」、3頁参照)を採用し、日本側出荷業者と輸入国側業者の深層情報収集により実相を把握する。JETRO(業界支援機関)・業界・学術の三位連携調査方式により、深層情報収集に高い効果を期待できる。
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