本研究の目的は,東寺百合文書の中に伝来する,光明講方算用状(1427-1532)における会計システムの変遷を実証的に解明することにあった。東寺百合文書の中にある光明講方算用状を研究対象とし、Giddensの構造化理論を基軸に、会計の社会的インパクトを考究している。見出した結論は、下記の通りである。 中世日本の仏教社会において光明講方算用状はそもそも荘園解体期に自分たちで何とか足りない資金をまかなうべく開始された貸付を可能とする媒体であった。しかしながら、不良債権の焦げ付き、再評価に加え、一時停止を経験した光明講方は1458年に光明講方算用状を通じより厳密に信用取引を記述しするようになった。結果として貸付業務の廃止を食い止め、それ以前よりも健全に継続できるようになった。つまり最終的には算用状を通じて荘園解体期の相互扶助(光明講方から資金繰りに困る他の寺内組織へ貸し付ける)という構造も維持・強化された。以上より、光明講方算用状を通じて貸付のシステムが維持・強化され、その結果、(1)光明講方という組織と他の寺内組織との関係性が崩壊する危機において会計システムが変化していること、(2)(1)より会計は組織間の関係を強化する媒体であり、光明講方算用状の分析はそれを表す一事例であることを明らかにした。 これらの結果は、会計史の国際的学術誌(査読ジャーナル)Accounting Historyで公表している。
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