今年度は研究代表者である長坂、分担者である小ケ谷がともにイタリア調査を実施した。 長坂は8月に約10日間、イタリアの家事労働者たちの社会関係や自己意識についての調査を実施した。調査では、フィリピン人男性家事労働者らと短期間であるが余暇時間を共にし、聞き取りを実施した。家事労働に従事する男性移住者への聞き取りでは、ホテルなどの他の職業と比較した場合、家事労働を「自分で仕事をオーガナイズすることができる」と肯定的に評価する見方があること、また「オールラウンド」という言葉を用いて、女性にはできない仕事もこなす家事労働者として自らを表現することなど、先行研究と比較しうるいくつかの興味深い知見を得ることができた。 小ヶ谷は、8月上旬に約10日間在ローマのフィリピン人男性家事労働者に対してインタビュー調査および、フォーカス・グループ・ディスカッションを実施した。また、参考としたパリ在住のフィリピン人男性家事労働者にもインタビューを実施した。調査を通して「家事労働」という「女性職」については、その中でも特定の職務(たとえばアイロンがけや、身体介助など)はむしろ「男性に向いている」という言説が生産されていること、「男性向き家事労働」の一環として、たとえばベビーシッティングにおける「父親代理としての役割」が強調され、その中で雇用主女性との間のジェンダー関係と労使関係が交渉されていることといった重要な論点が導き出された。また、若年世代への聞き取りでは、親に呼び寄せられて移住した第1.5世代の家事労働職の受け止め方は、親世代と微妙に異なる可能性が見いだされ、当事者の生活経験、移住経験の違いに着目する重要性も示唆された。 2月に広島において、代表者と分担者で研究会を開催した。上記の調査結果を共有した上で、研究成果のまとめについて意見交換をおこなった。
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