研究課題
国が公表している平成22年度から26年度までの概算要求書をデータベースに入力した。概算要求書には、非常勤職員手当などが計上されており、職種、人数、年収も記載されている。どの部局の、どの職種に、何人が、幾らで雇用されているかは把握できた。また、概算要求書には、再任用職員の給与も計上されており、これを参照基準にできる。例えば、職業安定所では非常勤職員の就職支援ナビゲーターが平均年収342万円で雇用されている。この給与水準は再任用職員の係長級(年収372万円)を下回るが、主任級(年収308万円)を上回る。そのため、非常勤職員を再任用職員に置き換えても、歳出予算はほとんど増加しない。しかし、この置き換えは現在のところ余り進んでいないようである。また、職業相談員(平均年収192万円)のような低所得の職種は再任用職員に置き換えることができない。文献調査を実施した。上林陽治(2012)『非正規公務員』日本評論社など優れた先行研究もあったが、研究対象が地方公務員に限られていた。また、研究内容についても、労働法の解釈に焦点を充てたものが多かった。例えば、公務員の「雇止め」に関する判例の評釈などである。そこで、新聞記事の検索を行うことにした。日本経済新聞などには全文記事データベースがある。断片的な情報ではあるが、国の非常勤職員の現状を知る上で貴重であった。なかでも、職業安定所の非常勤職員については、その低賃金を問題視する記事が散見された。インタビュー調査については、平成27年度に一括して行うことにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、概算要求書を活用して公共部門の低賃金労働を解明することにある。概算要求書に記載されている情報から、どの部局の、どの職種に、何人が、幾らで雇用されているかは把握できた。また、参照基準である再任用職員の所得水準も把握できた。更に、非正規職員の再任用職員への置き換えが、現在のところ余り進んでいないことも分かった。しかし、貧困を改善すべき公共部門が貧困を悪化させていることは明らかである。なぜなら、非正規職員の所得水準、特に所得安定所の職業相談員の所得水準(平均年収192万円)は余りに低過ぎる。
概算要求書のデータベースへの入力と分析は引き続き実施する。文献調査、特に新聞記事の調査も引き続き実施する。インタビュー調査については、調査対象の重点を官公庁から労働組合に変更する必要があるかもしれない。2012年9月に結成されたハローワーク非正規職員労働組合(東京)は有力な候補であるが、できる限り官公庁のインタビュー調査も実施したい。
新聞記事の全文データベースを利用することにしたため、他の経費を圧縮する必要が生じた。そこで経費のかさむインタビュー調査を、平成27年度と28年度に行うことにした。また、平成26年度は消費税率の引き上げを延期するという政治的判断から衆議院が解散されたこともあり、官公庁にインタビュー調査を引き受けてもらえなかった。公務員が対象とはいえ、所得格差に関するインタビュー調査は実施時期を選ばざるを得ないようである。
官公庁および労働組合へのインタビュー調査の経費、特に旅費として使用する。具体的には以下の通りである。高松‐札幌(2泊3日)の旅費111,060円、高松‐仙台(2泊3日)の旅費83,600円、高松‐東京‐大宮(3泊4日)の旅費90,060円、高松‐金沢(2泊3日)の旅費60,860円、高松‐大阪‐名古屋(3泊4日)の旅費73,520円、高松‐広島‐博多‐熊本(4泊5日)の旅費99,500円、合計518,600円。なお、不足額は平成27年度の経費を充当する。