戦時下では,一定数の国民がアジア語の学習を通じて大東亜共栄圏を構成するアジア諸国の社会や文化のありようを,「内地」から思い描く機会を得ていた. 戦時下における国民のアジア語の学習熱は,大東亜共栄圏構想を国民のあいだに実体化・身体化する力をうみだしていった.その結果,戦時下における国民のアジア語学習という営為は,大東亜共栄圏構想の鼓吹・浸透に親和的に作用した.以上から,大東亜共栄圏構想が軍部政府の一方的な鼓吹ではなく,言語学習を媒介とした国民の自発的な受容によっても浸透していったことが明らかになった.
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