この研究は、社会デザインを学部生教育に適用し、彼らの社会的実践に活かしていくことを目的としている。当初は、ニューヨークやシドニーの都市にみる社会デザインに観察・関与して、それを手がかりに実践に結びつけようとしたが、徐々に学生たちの関心は、ライフ・デザイン(生活と仕事の結びつき)およびメディア・デザイン(特にSNSにおける)に収斂していった。 なかでも、自分自身の仕事(就職)から起業にいたる学生たちが何人か出てきたので、彼らに集中的に取材することでいまの若者にとって社会デザインとは何かについて考察を深めることにした。従来の大学卒業から企業への就職によって自分の生活の安定を得るというキャリアデザインが成り立ちにくくなる中、組織人(オーガニゼーションマン)から起業家あるいは独立の専門職を志向する若者が増えつつある。その特徴とは何かが研究の焦点となった。 それをまとめると、1)やりたいこと(自分の内なる自然な欲求)を、仕事に結びつけたい(生活の糧にしたい)という欲求。これは今に限ったことではないが、組織人として生きることへの魅力の低下と、2)それが社会的な成功というよりは、親しい仲間のなかで認められたいという個人的な承認欲求の高まりにリンクしていること、そして3)やりたいこと志向と承認欲求をリンクする装置が、SNSという新しいメディアなのである。 具体的には、さまざまなカップルの写真サイトの運営、ソムリエという仕事を通じた食文化とワインツーリズムによる地域振興、京都観光における人力車業に与えるSNSの影響、無人島や都市のフリースペースを活用したキャリア開発などの事業事例を中心に報告書を作成した。 当初の予想とは異なる展開となったが、それは輸入型の社会デザイン論を超えて、オリジナリティあふれる研究が展開できたと思う。
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