研究課題/領域番号 |
26590108
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
武田 公子 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (80212025)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ / ハルツ改革 / 認可自治体モデル / 地域雇用政策 |
研究実績の概要 |
労働市場政策は従来中央政府レベルの役割と考えられてきた。しかし労働市場において不利な条件を抱え、それゆえに長期失業に陥るリスクの高い人々への支援は、社会包摂的な手法とスキルを以て行われる必要があるため、地方政府の役割にも注目する必要がある。本研究は、ドイツにおける長期失業者の社会生活・職業生活への統合施策である求職者基礎保障(SGBII)の実施主体をめぐる、連邦レベルと基礎自治体の間の事務・権限配分関係および費用負担配分関係を検討することを目的としている。すなわち、自治体と雇用エージェンシー(AA)が共同設立する「協同機関」(gE)と、認可自治体が単独でこの業務を実施する場合との二つの実施主体モデルである。本研究はこの二つのモデルをめぐる制度設計のあり方とそれをめぐる議論、両モデルのパフォーマンスの相違を検討するものである。2015年度は以下の点で調査研究を進めた。 第一に、2015年8月末から9月初にかけて現地調査を実施し、現地の実施機関、自治体中央団体、連邦機関、研究者等を訪問し、インタビューを行った。特に認可自治体としてヴッパータール市での現地調査では、この間の実施体制改革の下で認可自治体の制度運用上の裁量が拡大したことが実感できた。他方でgEモデルにおいても、若者向け支援の分野横断的なプロジェクトが行われていることも判明した。なお、この調査の折、シリアからの大量の難民がドイツに流入する状況が報じられた。その多くが今後SGBIIの対象に移行することが予想され、現地の実施機関でもその対応に向けた動きがあることがわかった。 第二に、これまでの調査研究を逐次論文等にまとめる作業をすすめた。結果的に、単著という形で出版にこぎつけることができ、05年のハルツ改革の開始時にさかのぼった事実経過を再整理するとともに、この制度が自治体財政に与えた影響を総括的にとらえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究成果を、単著(武田公子『ドイツ・ハルツ改革における行財政関係―地域雇用政策の可能性―』法律文化社、2016年)として出版することができた。本来、当該助成期間終了までにまとめる予定であったが、ハルツ改革実施から10年という区切りであること、次項で詳述するように、大量の難民流入を背景に、求職者基礎保障は別次元の局面に向かう可能性があることを背景に、出版を急いだ。 同書では、自治体が単独で(連邦雇用エージェンシーとは独立して)求職者基礎保障の実施主体となる「認可自治体モデル」に焦点を当てたが、このことには次の諸点が明らかにされた。第一に、同モデルの選択は、地域の貧困問題に対して、雇用・福祉・保健・教育・都市計画等、自治体がもつ他分野にわたる行政資源やネットワークを相互に連携させて立ち向かうという都市の戦略でもあるということである。第二に、基礎自治体という住民に最も身近な行政主体に求職者基礎保障の権限と裁量を持たせることにより、このモデルは一定の成果をもたらしていることである。第三に、他方で全国的な労働行政の標準化を意図する連邦機関と認可自治体モデルの間にはしばしば軋轢が生じていたものの、連邦憲法裁判所判決とそれを受けての連邦政府の改革とによって、問題は徐々に解決されてきているということである。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」でも触れたが、この間ドイツには大量の難民流入があり、その多くがSGBIIの受給者に移行することが予想される。これにより、SGBIIの実施体制は大幅な見直しが必要となると考えられる。この問題は、認可自治体モデルのような局地的な実施主体の在り方とは別次元の政策対応を必要とするであろう。連邦社会労働大臣が言及したように、高齢化による人手不足を抱えるドイツにあって、難民を労働力として受け入れようとする意思は揺るがないであろう。しかしその際に、文化的背景を異にする多くの人々をドイツの労働市場に統合していくには、社会包摂的な手段が不可欠である。それゆえ、こうした手段に関して政策的蓄積をもつ地方自治体との連携が一層重要になる。今後はこの点も念頭に置き、現地調査をさらに続けていきたい。 また、この一連の研究を通じて、「認可自治体モデル」に類した基礎自治体が担うジョブセンターはドイツだけの事例でないことも明らかになった。デンマークやオランダでも同様の経緯をたどり、ローカルなジョブセンターが普遍化している。今後はこれらの国々での調査も併せて実施していきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な旅費や図書資料・消耗品を購入した後の残額であり、不要な物品を購入して予算を消化するより翌年度に繰り越して有効に使用するほうが良いと考えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度における旅費、物品費、謝金等に適宜充当する予定である。
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