研究課題/領域番号 |
26590110
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
山野 尚美 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (90268748)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬物事犯者 / 薬物依存 / ソーシャルワーク / 司法福祉 / 更生保護施設 / 薬物事犯重点実施更生保護施設 / social work / drug abuse |
研究実績の概要 |
受刑者の再犯防止に向けては、刑事施設出所後の支援の重要性が指摘されてきた。平成21年度以降は法務省と厚生労働省の連携の下で特別調整が実施されることとなり、特定のニーズを有する人々が釈放後速やかに医療・福祉サービスを受けることができるような仕組み作りが進んできた。そして刑事施設出所後に地域における受け皿すなわち実質的な地域生活導入支援の担い手とされたのが更生保護施設である。更生保護施設は、刑事施設から地域での生活への円滑な移行の支援にあたってきた施設であるが、平成21年度からは一部の施設が指定を受けて、高齢者・障害者の一時的受入を行う特別処遇を実施することとなった。また、平成25年度には、再犯率が高いことが指摘されている薬物事犯者に対する薬物再使用防止のプログラムを提供する「薬物処遇重点実施更生保護施設」として、全国103施設のうち5施設が指定され、平成26年度には10施設、27年度には15施設に拡大された。 本研究では、このように更生保護施設の役割拡大への高い期待をその中核にちりばめた、近年の更生保護関連施策の動向を視野に入れつつ、それらの役割について、平均在所日数76.9日かつ89.0%の入所者が6か月未満で退所に至っているという更生保護施設の現状を踏まえて考察し、薬物事犯者に対する円滑な地域での新生活開始に寄与しうる支援プログラムのあり方について検討を進めている。 計画2年目にあたる平成27年度は、継続的に薬物依存に関する教育プログラムを提供している施設を対象として、過去の実施状況とりわけプログラムの内容とその変遷を中心としたデータの収集を行うと共に、プログラムを実施する経過における職員の意識の変化についても、聞き取り調査を行った。そしてこれらを踏まえて、入所期間を念頭に置いたモデルプログラムの立案を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、求められる役割が急速に拡大している更生保護施設の実状を把握し、それらを踏まえた上で、更生保護施策における薬物事犯者を対象とする効果的なプログラムの立案を目指している。 2年目に入った調査の過程では、次々に施策に掲げられる事業を最前線で実施する主体と位置づけられた更生保護施設について、そもそも事業実施に充分な体制・基盤が整えらられているのか?という点に目を向ける必要に迫られるに至った。とりわけ平均在所日数76.9日かつ89.0%の入所者が6か月未満で退所している現状(平成27年度犯罪白書)や、職員の配置人員数、職員に占める社会福祉士や精神保健福祉士等の割合などは、実施を期待されている専門支援プログラムの内容を大きく左右するものと推察される。 こうした調査の経過を踏まえて、当初予定していた薬物事犯重点実施更生保護施設の入所者を対象とする質問紙調査に基づいて、モデルプログラムを立案するという形ではなく、特定の施設においてモデルプログラムを試行しながらアクションリサーチの形で利用者と施設職員の双方から情報を収集していくことが研究上のメリットが大きいと判断するに至った。 そのため平成27年度は、継続的に薬物依存に関する教育プログラムを提供している京都市内の薬物事犯重点実施更生保護施設を対象として、過去の実施状況とりわけプログラムの内容とその変遷を中心としたデータの収集を行うと共に、プログラムを実施する過程における職員の意識の変化についても聞き取り調査を行った。そしてこれらを踏まえてモデルプログラムの立案を行った。なお、27年度に予定していたスウェーデンにおける先行事例についての現地訪問調査については、この1~2年で医療目的または嗜好品としての大麻使用を合法化する国際的な動きが急速に進んでいる状況を踏まえて、一旦保留し、3年目に渡航先の選定も含めて再度検討することとした。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】にも述べたとおり、当初想定していた課題(元受刑者というスティグマや当事者自身の恥意識等)のみならず、プログラムを実施する職員の知識や経験(教育や資格取得状況も含め)や施設の体制などに目を向ける必要があり、それらについても、効果的なプログラムの内容の検討と並行して進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に予定していたスウェーデンにおける先行事例についての現地訪問調査については、この1~2年間で医療目的または嗜好品としての大麻使用を合法化する国際的な動きが急速に進んでいる状況を踏まえて、一旦保留した。
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次年度使用額の使用計画 |
大麻使用の合法化についての状況を確認した上で、医療目的での大麻使用も含めて非合法としている日本の実状において参考になりうるかを吟味した上で、渡航先を再度検討して、先行事例についての情報収集のための海外現地訪問調査を実施する。
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