2006 年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」は,障害書を保護の対象から権利の主体へ変化させた.日本は2007 年に条約に署名し,締結に向けた国内法の整備を進めている.代表的な制度改革としては,2011 年の障害者基本法改正,2012 年施行の障害者虐待防止法,2013 年施行の障害者総合支援法があげられる.本研究を遂行した志村(2013)は『社会福祉研究』(第116 号)で,これらの動向を踏まえつつ,2012 年10 月に施行された障害者虐待防止法について,権利擁護のシステム構築の視座から論じ,「コミュニケーションに課題を抱える障害者への支援についての知識,技術等の確立」の必要性を指摘した.コミュニケーションや意思決定に課題を抱える知的障害者が権利の主体となるためには,意思決定支援が重要である.携帯性と利便性を併せ持つタブレットPC は,障害児教育や障害者のコミュニケーションに広く用いられるようになった.このようなタブレットPC の特性は知的障害者の意志決定支援のツールとなる可能性を示唆しており,社会的な意味を持つ.3年間の研究期間において当初の目論見であったアプリの開発までには至らなかったが,関連するアプリを厳選し,実践現場での使用を検証した.本研究の主たる成果は以下の通りである. 1.特別支援教育の分野での使用が先行しているタブレットPCの利用について,社会福祉現場においても有効なツールであることが明確になった.特にタブレットPCを用いることにより,職員の意識改革,職場の構造的な改革への動機づけになることが明らかになった. 2.タブレットPCを用いるにあたっては,単独で用いることよりもアナログ的なツールと合わせて導入することがより効果的であることが明らかになった.
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