研究課題/領域番号 |
26590126
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
野山 広 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 日本語教育研究・情報センター, 准教授 (40392542)
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研究分担者 |
河原 俊昭 京都光華女子大学, 人文学部, 教授 (20204753)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 言語サービス / 言語生活支援 / コーディネータ / キーパースン / 半構造化インタビュー / Welfare Linguistics / 言語サービス評価 |
研究実績の概要 |
本研究は、平成17年度から20年度にかけて行った科学研究費(基盤B)(以下、科研1)の「多文化共生社会に対応した言語教育政策の構築に向けた学際的研究-複合領域としての日本語教育政策研究の新たな展開を目指して-」の成果の一部を踏まえて、「言語サービス評価の方法」のモデル開発に関する萌芽的研究である。26年度は、研究分担者との間で3回の会合を持ち、「言語サービス」ということばの意味について再検討するとともに、連携研究者、協力者との情報交換を適宜行いながら、「言語サービス評価の方法」のモデル開発に向けて、以下の1~3の調査研究を行った。 1.国内調査:科研1の結果からその地域の人口構成をはじめ、言語サービスや言語生活支援に関する事業担当者やコーディネータ役を務めている人々が特徴的と捉えられる地域と考えられる国内約20地域に焦点を当てる。26年度は、これらの地域の中で11地域(①北海道札幌市、②秋田県能代市、③群馬県太田市、④東京都武蔵野市・港区、⑤静岡県浜松市、⑥大阪府大阪市、⑦兵庫県神戸市、⑧岡山県総社市、⑨広島県広島市、⑩福岡県福岡市、⑪長崎県長崎市)に焦点を当て26年5月~27年3月に、各地域を訪問して、言語サービスを支えるキーパースンに対して本研究に関連した調査協力依頼と、半構造化インタビューを行った。 2.1のインタビュー調査の結果を踏まえて、国内の地域ごとの言語サービスの特徴、地域の背景・特徴(集住地域、散在地域、大都市地域、大都市周辺地域、その他の地域)を踏まえた特徴分類を行った。 3.パイロット研究としての海外調査では、科研1の結果を踏まえて、日本と歴史的・文化的背景や関係性において近い関係にあり、特に2000年以降、移民受け入れのための支援方策としてさまざまな多言語・多文化政策を展開してきている韓国(A市)を訪問し、本調査に向けた関係者へのネットワーク作りを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、国内の言語サービスの実態を調査するとともに、その結果を踏まえ、「言語サービス評価」の指標を開発するための研究を行うことが目標である。ここで用いる「言語サービス」とは、「外国人が理解できる言語を用いて、必要とされる情報を伝達する」という意味である。この意味での言語サービスは、これまで日本の各地で様々な形でサービスが提供されてきているが、どちらかと言えばやりっぱなしであり、サービスの効果の検証、つまり「言語サービスの評価」が行われていない状況にある。 そこで本研究では、やりっぱなしが多い言語サービスの効果検証に向けて、その地域の人口構成をはじめ、言語サービスや言語生活支援に関する事業担当者やコーディネータ役を務めている人々が特徴的と捉えられる地域と考えられる国内約20地域(①北海道札幌市、②秋田県能代市、③山形県山形市、④群馬県太田市・大泉町、⑤東京都武蔵野市・新宿区・港区、⑥神奈川県川崎市・横浜市、⑦長野県上田市、⑧静岡県浜松市、⑨三重県鈴鹿市、⑩大阪府大阪市、⑪兵庫県神戸市、⑫岡山県総社市、⑬広島県広島市、⑭愛媛県松山市、⑮香川県高松市、⑯福岡県福岡市、⑰長崎県長崎市、⑱沖縄県西原町)に焦点を当てる予定である。 初年度(平成26年度)は、これらの地域の中で約半分の12地域(研究実績の概要参照)に焦点を当て、各地域を訪問して、言語サービスを支えるキーパースンに対して本研究に関連した調査協力依頼・説明や、サービスの在り方等に関する半構造化インタビュー等を実施することができた。 また、「言語サービス」の再定義に向けた検討に関しても、分担者と協力しながら、順調に進んできている。海外調査についても、韓国(A市)を訪問し、本調査に向けた関係者へのネットワーク作りを行うことができた。 以上の達成状況から、おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、これまでに収集したインタビュー結果等のデータをPAC分析(Personal Attitude Construct = 個人の態度や認識の構造分析で、臨床心理学の手法の一つ)などの手法を用いて分析する予定である。その分析・分類結果を踏まえて、「言語サービス評価」の指標作りを、学際的観点から行う。海外(韓国A市)及び国内(B県C市)調査では、多文化(共生)社会や異文化理解に関する住民の意識に関して、キーパースンに対する個別の半構造化インタビューや、アンケート調査を行う予定である。 最終的に、福祉的で幅広い分野(「方言」「老人語」「言語教育」「言語管理」「言語生活」「医療:看護・介護」「観光」等)の課題も視野に入れたWelfare Linguistics(徳川1999)の観点から、分担者、協力者との協働、検討をもとに言語サービスの定義の問い直しを行うとともに、その在り方について追究する。具体的には、地域ごとの言語サービスの特徴、地域の背景・特徴(集住地域、散在地域、大都市地域、大都市周辺地域、その他の地域)を踏まえた特徴分類を行うとともに、サービスの在り方に関する批判的展望を行いたい。そして、本研究の成果となる「言語サービス評価」指標の開発研究を手始めとして、将来的には、その成果普及活動や発展的研究の展開を通して、3.11のような災害時に不可欠な外国人住民(移民してきた地域定住者)への多言語サービスの提供の充実や、その一環として期待される言語生活支援の充実に向けた施策作り、今後の多言語・多文化社会に対応した長期的視野に立った言語政策や言語サービスの提供に向けた基礎資料提供を目指したい。
参考文献 徳川宗賢(1999)「ウェルフェア・リングイスティクスの出発」(対談者J.V.ネウストプニー)『社会言語科学』第2巻第1号 pp.89-100 社会言語科学会
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次年度使用額が生じた理由 |
国内の地域調査の訪問に関して、初年度にほぼ予定通り訪問できたが、一部の地域(四国、沖縄等)は次年度に持ち越すこととなっためである。
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次年度使用額の使用計画 |
四国(愛媛県松山市、香川県香川市等)や沖縄の訪問調査の旅費として使用する予定である。
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