研究課題/領域番号 |
26590129
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
渡辺 洋一 山形大学, 人文学部, 教授 (10137490)
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研究分担者 |
福野 光輝 山形大学, 人文学部, 准教授 (30333769)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 交通心理学 / 規範意識 / 危険認知 / 自転車運転行動 |
研究実績の概要 |
1.通行中の危険要因の認知について:大学生および大学職員351名を対象として,通行時に危険を感知した場所,危険を招いたと認知する要因(道路環境,歩行者,自転車,自動車)について調査した.その結果,通行手段によって危険要因の認知にズレのあることがわかった. 日常もっとも多く危険を感じているのは自動車運転者であった.自動車運転者は危険を招いた要因について等しく目配りしていることが示唆され,交通法規やそれに基づく処罰などの社会的影響についての知識が影響していると考えられた.危険を招いた要因として,歩行者は道路環境を第一にあげたが,これは調査地域の歩道が狭いことが大きく影響していると考えられた.自転車運転者が危険要因として最も高く認知しているのは自動車であるが,自動車運転者の側は必ずしも自転車にのみ注目しているわけではない.この結果は,接触した場合の被害の大きさなどから,自転車の方が自動車をより大きな危険要因として認知していることが影響していると考えられた. 2.自転車運転者の交通に関する規範意識と行動の変容について:大学1年生に,4月と7月に質問紙調査を実施した.両方の調査に参加し自転車を通学に利用していると答えた学生80名を分析した.調査項目は,自転車の利用頻度,自転車運転の知識,自転車の危険運転の経験であった. 4月から7月への意識と行動の変化をパス解析によって分析した.自転車の安全運転に関する知識は4月から7月と学期を通して向上した.しかし,安全運転に関する意識が危険運転行動を減少させるという明確な効果は見出せなかった.逆に安全運転に関する知識が多い者ほど危険運転が高まる傾向が見られた.これは,知識が多い者ほど危険運転を自覚できるという可能性も考えられるが,「守らなくて大丈夫」という負の規範意識の獲得ともいえる学習の可能性も考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歩行,自転車運転,自動車運転という通行手段によって,同じ場所でも危険要因の認知にズレがあることを明示することができた.この点は,錯綜する交通場面を分析する本研究の主要な着眼点とするところであった.とくに,昨今,関連法規の改正等でも対策が急がれている自転車の運転に関しては,同一参加者の4ヶ月後の意識と行動の変化を分析した.その結果,安全運転の知識は増加するにも関わらず運転行動の改善に結びつかないことがわかり,規範意識と行動の関係について再検討すべき課題として示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,通行手段の錯綜する交通場面の危険度を定量的に評価できる手続きを開発することである. 平成26年度の研究で,通行手段によって危険認知にズレのあることと,自転車運転者については安全運転に関する知識の獲得が運転行動の改善に必ずしも結実しない実態を明らかにした.とくに自転車運転に関しては,自動車とも歩行者とも通行路が交錯する可能性が高く,危険を招きやすいと考えられることから,効果的な安全運転教育の策定が急務である.今後は,自転車運転を中心に,他の通行者との危険認知のズレと規範意識と行動の不一致をうむ要因を明らかにしたいと考えている.ただし,当初計画していた実際の通行場面の分析と提示については,参加者の安全やプライバシーの問題もあり,一部すでに試行中であるが,より適切な手続きの採用も検討中である. 並行して,人の特性別・通行手段別に重みづけの異なる変数リストから,総合して任意の場所の危険度を示すことができる通行危険度評価手続きを作成する.たとえば自転車の通行帯が明確な場所は錯綜する場所よりも危険の度合いが減ることを,自転車運転者と自動車運転者の双方の危険度認知に基づいて示すことができると考えている.一定の評価法を作成したら,新たに撮影した実際の通行場面を観察してもらい錯綜場面ごとに評価を求め,評価者間の差異が大きな項目については再度検討し評価手続きの精度を高める.危険予測に十分な精度が得られた場合には要注意箇所を示す簡便なパンフレットを作成し,研究に協力してもらった大学生や児童生徒,周辺住民など関係者に配付する予定である.
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