錯綜場面における歩行者と自転車運転者のリスク認知について社会心理学と認知心理学の2つのアプローチから検討した. 通行中の危険要因の認知について,大学生および大学職員を対象として,通行時に危険を感知した場所,危険を招いたと認知する要因(道路環境,通行手段など)について調査した.その結果,歩行者の多くが道の狭さや見通しの悪さといった道路環境を危険要因と指摘しているのに対して,自動車運転者では道路環境だけではなく全般的に注意を向ける傾向がうかがあるなど,危険要因の認知が通行手段ごとに相対的に変化し錯綜していることがわかった.日常もっとも多く危険を感じているのは自動車運転者であった.ここには社会的制裁への対応という別のリスク認知の関与が考えられた. 自転車運転者の交通に関する規範意識と行動の変容について,大学1年生に4月と7月に質問紙調査を実施した.自転車の安全運転に関する意識は4月から7月と学期を通して向上した.しかし安全運転に関する意識が危険運転行動を減少させるという明確な効果は見出せなかった.昨今,自転車の危険運転に対する法規上の責任が明確化されたことから,自動車と同様にこれが社会的リスクとして認知されて運転行動に影響するか否かについては今後の検討課題である. 自動車の運転者から見た自転車や歩行者の通行場面についての動画を見せて危険要因を発見する実験を行った.自動車運転免許の取得状況やふだんの通行手段と危険要因発見の正確さの間に関連は見出せなかった.日頃の注意深さの自己評価が高い人ほど危険要因の察知が鋭い傾向はうかがえたが統計的に有意なものではなかった.一般的な危険に対して警戒することと,起こりうる危険な出来事を具体的に予知し対応することには違いがあると考えられ,身近な通行場面を用いてさらに検討する必要があろう。
|