研究課題/領域番号 |
26590139
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
真島 理恵 熊本学園大学, 商学部, 講師 (30509162)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会的ジレンマ / 協力 / 罰 / サンクション |
研究実績の概要 |
平成26年度は、近年コストリーな罰の説明原理として注目を集める強い互恵性の説明範囲の特定を目的とした実験室実験を行った。近年、「単に集団や他者に協力するのみならず、利害関係のない非協力的な他者に対して、一切の見返りがないにもかかわらずコストを支払い罰を与えることで、集団内の相互協力状態を維持しようとする強い互恵性が、相互協力成立の鍵となる」という強い互恵性の議論が注目を集め、人々が利害関係のない他者への第三者罰を行使することを示す実験結果が、強い互恵性の証拠として数多く示されている。しかし、それらの実験結果が本当に強い互恵性の存在を示すものなのかには議論の余地がある。なぜなら、これまでの第三者罰実験では、参加者が取り得る行動は「非協力者を罰する」か「何もしない」かにほぼ限られていた。そのため、罰以外の行動が可能な場合にも、本当に人々は自発的に社会的リスクの高いコストリー罰に従事するのかは明らかではない。そこで本研究では、強い互恵性に基づく第三者罰がアーティファクトを超えて観察されるかを明らかにするため、行動選択肢が罰のみの状況と、罰以外の行動の選択肢(報酬を与える)も存在する状況を比較する実験を行った。罰のみ可能な「罰のみ」、報酬のみ可能な「報酬のみ」、両方が可能な「両方」の3条件を設定した。両方条件では、罰のみ条件に比べ罰の行使が減少すると予測した。結果、予測に反し、罰行使度には条件差がみられなかった。罰以外の行動が可能であっても第三者罰を行う人が一定数存在することが示唆された。一方で報酬の行使度は、両方条件に比べ報酬のみ条件の方において行使度が著しく高いという条件差が確認された(報酬のみ条件でのサンクション行使度は全条件の中で著しく高かった)。更に詳細な分析の結果、報酬のみ条件の参加者が状況を互いに与え合う一般交換の状況として理解していたことを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、近年サンクション(特にコストリー罰)の基盤として注目を集める強い互恵性が、コストリーな第三者罰を説明可能かを検討する実験室実験を実施した。その成果として、罰以外の選択肢がある状況でも、選択肢が罰しかない状況におけると同程度に第三者罰が観察されることが明らかとなり、直接の見返りを伴う互恵性では説明できない利他的な第三者罰の行使傾向を備える人が一定数存在する可能性が示唆された。ただし罰額の最頻値は0(全く罰しなかった)であり、社会の協力状態が「皆が協力し、また罰する」という単一均衡で成り立つわけではない可能性も示された。更に、報酬額の分析の結果、報酬のみが可能な(従って罰についての説明を参加者に行わない)条件において、顕著に高額のサンクション行使がなされたことが明らかとなった。また、事後質問への回答と行動との関連を分析した結果、罰に関する教示を一切行わなかった「報酬のみ」条件参加者は、状況を、「資源を与え合うことが望ましい一般交換状況」として認知していた可能性が示唆された。即ち、報酬というフレームでサンクションを導入することにより、人々が現実の一般交換で用いている状況認知や行動方略を持ち込んで他者に資源を与える報酬提供行動に従事したために、顕著なサンクションの行使が観察されたという可能性である。これらの結果は、過去の「協力者への報酬サンクション」を扱った実験研究において観察されてきた報酬行動が、報酬サンクションは一般交換との連結によって適応的となる可能性を示唆するものである。このように平成26年度は強い互恵性がモデルに投入して検討すべき個人特性であることが確認されたとともに、一般交換との連結がサンクションの適応的基盤となる可能性があり、ただしそれにはサンクション形態による制約があるという新たな知見を発見することに成功しており、計画は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26度までの結果は、利他的な第三者罰行使傾向を備える人が少数存在する可能性を示すものであった。ただし罰に使用した金額の最頻値は0(全く罰しなかった)であり、社会の協力状態が「皆が協力し、罰する」という単一均衡で成り立つわけではない可能性も同時に示された。更に詳細な分析の結果、サンクションを報酬という枠組みで提示することにより協力的な社会的交換における行動方略が活性化される可能性が示唆された。そこで平成27年度はまず、罰が促進される社会状況要因や社会的手がかりを特定するとともに、積極的な罰行使者の個人特性を明らかにする実験室実験を行う。先行研究の多くにおいてそうであるように、平成26年度の実験においても、罰の行使度は低かった(最頻値は0であった)ため、積極的罰行使者の特性や、罰を促進する状況認知、ひいては罰が適応的になり得る社会的ドメインを特定することが困難であった。そこで、罰行使の行われる状況・環境の特性を明らかにするとともに、それぞれの状況における積極的罰行使者の心理・行動特性を特定することを焦点とする実験を行う。機会コスト・他者からの監視の有無等の状況要因を操作した実験を行い、それぞれの状況においてサンクション(罰・報酬)が行使される程度を測定し、サンクション行使が協力維持に必要とされる状況を特定するとともに、それぞれの状況において積極的なサンクション行使を行う個人の特性を特定する。それらの実験結果に基づき、理論モデルを作成する。実験から特定された、サンクション行使により協力が維持された状況それぞれにおいて、強い互恵性に加え、実験からサンクション行使者の特性として観察された個人要因を淘汰対象となるプレイヤーの戦略として導入したコンピュータ・シミュレーションを行い、いかなる状況においていかなるサンクションが、どのような仕組みで適応的となり得るかを明らかにする。
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