本年度は、前年度までに収集した第三者罰・報酬に関する実験データを用い、サンクション行動の至近因と究極因についての詳細な解析を行った。本研究では、強い互恵性に基づく利他罰が、「非協力者を罰する」「何もしない」以外の行動選択肢(協力者(非協力者)に罰・報酬提供を行使する)が存在する場合にも観察されるかを検討するため、行動選択肢が罰のみの状況と、罰以外の行動の選択肢(報酬を与える)も存在する状況を比較する実験(「罰のみ」、「報酬のみ」、両方が可能な「両方」の3条件を設定)を行い、データ解析を行った。実験の結果は、罰以外の行動が可能であっても第三者罰を行う人が一定数存在することを示唆するものであったが、実験では、「非協力者への罰」「協力者への報酬」という向社会的なサンクションのみならず、「協力者への罰」「非協力者への報酬」という反社会的なサンクションの行使も観察された。そこで、各条件における向社会的及び反社会的サンクションの行使度とその促進要因について解析を行った。その結果、罰・報酬のいずれかのみ行使可能な状況では反社会的サンクションの行使者が一定数みられるものの、罰と報酬の双方が行使可能な状況では反社会的サンクションの行使者が極端に減少することが確認された。また、向社会的な罰・報酬のみを行使した者に比べ、反社会的サンクションを行使した人の特徴として、「せっかく実験に来たのだから資金を使ってみたい」というサンクション動機を強く示していた。協力者に対する報復としての反社会的罰が近年注目を集めているが、これらの結果は、実験において観察される反社会的サンクションの多くは「実験で何かをしてみたい」という攪乱要因によって生じるアーティファクトに過ぎない可能性があること、また、そのような攪乱要因による影響は、複数種類の行動選択肢を提示することで抑制されうることを示唆するものである。
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