研究課題/領域番号 |
26590144
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
島田 英昭 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (20467195)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二重過程理論 / 並行的共感 / 応答的共感 / 説明文 / 理解 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、以下の3点を行った。 (1)本研究は、次の手続きによる心理実験を行っている。教師である中村さんによる「わかりやすい教育実践報告書の書き方」という文章を作成した。文章の書き方のみに特化した統制条件と、統制条件の中に中村さんの主観的な感想(たとえば、まわりの先生からほめられてうれしかった、など)や中村さんのイラストが込められている共感喚起条件を設定した。参加者は、2条件の説明文を読んだ後、並行的共感(相手の感情のコピー;システム1)と応答的共感(相手の感情の解釈;システム2)、理解度テスト、主観的わかりやすさ、態度についての質問に答えた。以上の手続きにより、平成26年度に取得したデータとその分析結果をCognitive Science Societyの年次大会であるCogSci2015において発表した。本研究開始前の平成25年度に取得した準備研究と、その研究で問題になった手続きを改良して実施した研究結果をまとめて発表した。 (2)平成26年度の手続きと同様のデータを取得し、サンプルを増やして分析を実施した。その結果、(a)並行的共感、応答的共感ともに共感喚起条件の方が高い、(b)正答率については統制条件の方が高い、(c)主観的わかりやすさは統制条件の方が高い、(d)行動の実行しやすさは、統制条件の方がやや高いが、それほど差はない。共分散構造分析の結果と合わせると、共感の喚起は正答率を下げ、主観的わかりやすさも下げる一方で、共感の喚起が主観的わかりやすさや行動の実行しやすさを高めることが明らかになった。 (3)二重過程理論に関するシンポジウムを、日本ブリーフサイコセラピー学会第25回大会、日本認知科学会第32回大会、二重過程理論の応用―教育,臨床,社会―において行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手続きを改良し、十分なサンプルを確保して分析することで、共感が説明文の理解とその後の行動に与える影響について明らかにすることができた。これは、当初計画を十分に達成している。また、当初の予定に加えて、二重過程理論に関するシンポジウムを複数行い、情報交換・広報ができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、平成27年度の成果をもとに、応用的な提案をする予定であった。しかし、基礎研究を進めているうちに、次の2点を明らかにする必要が生じている。第1に、本研究が扱っている以外の種の共感を変数に導入することである。たとえば、他者の視点に立つ「役割取得」など、その他の種の共感が同様の効果を持つかどうか、確認する必要があると考えている。第2に、特性的な共感性の個人差を導入することである。本研究の考案した手続きが、当初の想定よりも確定的な結論を下すためのサンプルサイズが大きくなっていることから、実験実施の負荷が大きい。そこで、上記の2つのアイデアの内、一方を実施することを、本研究の課題とする。 また、得られた成果の学術論文化を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について、当初計画で見込んだよりも安価で研究を進めることができたため、繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
共感あるいはその周辺領域に関する情報を収集する必要が当初の想定以上にあり、文献収集、外国出張、国内出張により情報収集を行う予定である。次年度使用額と平成28年度請求額を合わせ、主に旅費に充てることで、研究のより一層の進展をねらう。
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