本研究は、次の手続きによる心理実験を行った。教師である中村さんによる「わかりやすい教育実践報告書の書き方」という文章を作成した。文章の書き方のみに特化した統制条件と、統制条件の中に中村さんの主観的な感想(たとえば、まわりの先生からほめられてうれしかった、など)や中村さんのイラストが込められている共感喚起条件を設定した。参加者は、2条件の説明文を読んだ後、並行的共感(相手の感情のコピー;システム1)と応答的共感(相手の感情の解釈;システム2)、理解度テスト、主観的わかりやすさ、コミットメントについての質問に答えた。この実験パラダイムでは、想定より大きなサンプルサイズが必要であることが判明したため、追加のサンプルを収集した。また、サンプルを追加する際に、特性共感についての変数をあらたに加えた。その結果、これまでに開発してきた実験パラダイムにおいて、共感エピソードが文章の理解度を阻害する一方で、共感を上昇させ、主観的わかりやすさを高める効果がはっきりと確認できた。特性共感との関係については、一部の下位尺度と状態共感の相関がみられたが、やや解釈が困難であり、今後の課題として残された。本研究の成果について、国内フォーラム(第2回学びフォーラム;信州大学次世代型学び研究開発センター)で話題提供を行った。 また、共感の二重性についての追試を実施した。その結果、研究チームの初期の研究が完全に再現されるには至らなかったが、一部については理論的な予測が支持された。この成果は、現在学術雑誌に投稿中である。 関連する研究として、説明の満足度に関する研究を行い、成果を国際会議(31st International Congress of Psychology)で発表し、学術雑誌に投稿中である。また、ICTと学習に関する研究を行い、書籍(児童心理学の進歩Vol.56)が出版予定である。
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