研究課題
小説の読解力には、記憶力、想像力、裏の意味を探る力が必要であり(田村, 1986)、小説読解の方略を学習することで、他者の意図理解や心情理解の能力が向上する可能性がある。本研究では、自閉スペクトラム症 (ASD)の傾向の高い大学生とASDの傾向の低い大学生を対象として、小説を用いた短期間集中の介入を行うことで、心の理論課題と日常生活スキルの向上を目的としたトレーニング法を開発する。社会的な意義として、第一に、心の理論や心情理解といった社会生活を送る上で重要な能力を、小説の読解を用いて改善をさせることを試みる点に意義がある。小説の理解が、言語的および非言語的な心の理論の改善にいかに作用するかを明らかにする研究は、基礎研究として価値の高いものである。第二に、小説理解方略のメカニズムを解明することができれば、物語を用いたソーシャルスキル支援のトレーニングを考案することができる。第三に、応用の方向として、ASD者、定型発達者の道徳性の理解、特別支援教育に重要な知見を提供できる。さらに、新たな国語教育方法を提案できる可能性も考えられる。以上のように、本研究課題で得られた成果は教育実践、読解プログラムやソーシャルスキルトレーニングの開発に広く応用可能であり、社会的意義は大きいと考えられる。現在プログラムの全体像が完成し、予備調査、本調査へと進む予定である。プログラムを作成するに当たり、自閉スペクトラム症の児童、成人を対象とした基礎的な研究を行い、国際学術雑誌2本を出版し、関連する著書も3冊出版した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定よりもプログラムの作成は時間がかかっているが、国内外の共同研究者とのディスカッションにより、現在実施されている自閉症支援プログラムの優れた点を取り入れ、問題点を改善したプログラムの開発が可能になった。さらに、自閉スペクトラム症の児童、成人を対象とした基礎的な研究を行ってきたことで、最新の科学的根拠を踏まえたプログラムの完成が近づいている。研究機関における倫理審査も通過したので、予備調査、本調査が実施できる状況にあることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
予備調査、本調査を進める。予測を支持する結果が得られたら、論文として発表する。平行して、「日常生活スキル支援プログラム」国際版の開発に取り掛かる。予測を支持しない結果が得られない場合、たとえば、プログラムの有効性が実証されない場合は、プログラムの修正版を開発し、一般大学生で有効性を確認した後で、自閉スペクトラム症の方々に対して実施を行う。
本年度は、日常生活スキル向上プログラムの開発を主に行っていたため、使用予定であった人件費・謝金を使用しなかった。
次年度に、現在い開発を進めている日常生活スキル向上プログラムの評価を行う際に、研究保持者に対する人件費と実験参加者に対する謝金を支払うことによって、使用する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 図書 (3件)
Social Cognitive and Affective Neuroscience
巻: 10 ページ: 145-152
10.1093/scan/nsu126
Frontiers in Human Neuroscience
巻: 9 ページ: 124
10.3389/fnhum.2015.00124