研究課題/領域番号 |
26590150
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
安藤 寿康 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (30193105)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 教育系心理学 / 個体学習 / 模倣学習 / 教育学習 / fMRI / 脳画像 / フィードバック / ミラーニューロン |
研究実績の概要 |
個体学習、模倣学習、教育学習の三条件をfMRI内で比較可能な課題の選定・構築のための情報収集を行った。 個体学習と模倣学習(あるいは観察学習)を比較した研究は比較的数多くあり、多くは感覚運動機能を用いたもの(指の動作列、ギターコードの学習、フライトシミュレータの操作学習など)であったが、それを教育条件下で設定することが困難である。 そもそも「教育学習」としての条件を満たすためにはどのような条件が必要かを、共同研究者ならびに社会脳研究者、教育心理学研究者などとブレーンストーミングを行った。そこから導き出された方向性は以下のようなものであった。(1)インストラクション・ビデオを視聴し、その指示に従うだけでも「教育」と言えるのではないか(しかし、これは観察学習と区別されえない可能性は否定できない。インストラクターとのリアルタイムでのフィードバックや指示などのインターラクションが必要条件であるという見解もあった)、(2) 学習者へのインストラクターからの視線や言葉がけがある場合とない場合で、教育学習と観察学習を区別しうるのではないか、(3) インストラクターが何らかの意味で「権威」ある者として学習者には認知される必要がある(当該の知識の専門家であるとの事前教示など) また学習内容としては、従来の感覚運動機能の学習だけでなく、記号操作やルール学習のようなものの方が好ましいと判断された。その候補として、新奇の言語または人工言語、あやとりや折り紙の手順、数値変換のルールなどが上がった。これらは特定の言語に依存しない課題として、普遍性をもちうるからである。 また基本的な要件として、刺激となる画像の認知的複雑さは全条件で同じになるように操作する必要があることも確認された。 関連する脳部位としては、当該の課題の知覚的モダリティーだけでなく、自己制御、自我、ミラーニューロンなどが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度内に実験課題を確定し、行動実験レベルでの予備実験まで行うことを予定していたが、課題の満たすべき条件の洗い出しまでに終始したことは、やや遅れている部分である。これは研究代表者がこの期間、特別研究休暇(サバティカル)に採択され、社会脳研究も盛んなロンドン大学に半年在外研究を行うことになったため、日本でのオンサイトでの研究活動ができなかったことに起因する。しかし、在外期間中に、現地の社会脳研究者などから、日本では得られない最新の関連する知見を入手し、それをふまえて研究計画を立てることができたことは、その遅れを補って余りある成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
言語課題、数学課題、そして感覚運動課題の3課題領域から、個体学習、模倣学習、教育学習の三条件を比較可能なMRI内で実施できる課題を7月までに作成し、8~9月に行動レベルのでの予備実験を行った後、10月以降、本実験を実施する。 いずれの課題においても、コンピュータ化された学習プログラムを自身で進める(個体学習)、それを他者が行っている映像を視聴して学習する(模倣学習)、そのプログラムを視聴者に教示するために作られた映像を視聴して学習(教育学習)の三条件を設け、その視覚的、言語的な複雑さなどを統制する。また特に教育学習では、その教示者が学習者に対してnatural pedagorgyを喚起する学習者に向けられた視線の動きや言葉がけを含むものにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題採択の決定通知前に、本務校での特別研究期間(サバティカル)が確定しており、本研究の調査計画をよりよいものにするために、この期間、打ち合わせと情報収集のために研究費を用いることとなった。そのため、計画段階の使用用途である研究協力者への謝金や課題開発にかかる支出を次年度に回すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に実施できなかった課題開発、予備実験を行い、それに支出する。
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