教育脳とは、ヒト以外の動物にも広く存在する学習様式である個体学習、観察学習に対して、ヒトにおいて特異的に発達した教育による学習(教育学習)に特異的な脳活動を仮想したものである。本研究は、個体・観察・教育の三種類の脳活動の差を検出することを目的とした。 本研究の萌芽段階としての最大の課題は、この三種類の脳活動の差をfMRIの中で比較することの可能な実験課題を構築することであった。それはこれら三種類の学習をどう操作的に定義し、分離するかという問題の検討から始まる。 最終的には、fMRIの中で実現されやすく、したがって先行研究の蓄積もあるfinger movementを課題とした。課題は単純指運動課題と指文字課題の二種類を作成した。単純指運動課題は、一連の指の上げ下げの組み合わせからなる動き(連続する4パターンを記憶する)を、被験者自身のPC操作によって自分のペースで学ぶ状況を個体学習、PCスクリーンの中で演じられる教師-学習者間でなされていることを想定した学習場面を見て、同じ指動作の配列を記憶させるのを観察学習、そしてPC上で出された同様の課題に対して、そのつど正誤のフィードバックをかけるのを教育学習とした。指文字課題では、単純指運動課題と同じ刺激パターンが用いられるが、それぞれの指の形に意味を与え、その配列によって一文を構成するパターンを連合学習させた。 fMRIでの実験に先立ち、これらの学習の難易度や施行時間の確認とともに、そもそも学習者にこれらの差がどのように認知されうるかどうかを確かめるため、fMRIの中ではなく、一般的実験室的な行動実験を約20名の大学生を対象に施行した。その結果をもとにfMRI用の実験課題を作成し、数人の被験者による予備実験を実施した。現在データを解析中である。
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