遺伝カウンセリングは日本でまだ始まったばかりの医療体制であるが、遺伝性疾患に関わる人々の苦悩は大きく、相談者への心理社会的支援は必須であり、日本人のデータを得ることは喫緊の課題である。本研究は、遺伝性疾患に関わる相談者の心理的特性を明らかにすることで、相談者の心に寄り添った遺伝カウンセリングを提供するための方法を開発することが目的である。調査対象者は、2014年6月~2018年2月、遺伝カウンセリング外来受診者で、研究協力に同意した20歳以上の相談者である。調査は、①相談者のエンパワーメント②遺伝カウンセリング担当者へ希望すること③不安の強さを測定する質問紙等である。研究への参加協力を依頼した相談者128名中93人(参加率72.7%)から同意を得られた。その結果、相談者の属性によって多くの側面で有意な差がみとめられた。疾患別にみると、筋疾患の相談者は他の疾患と比べて、疾患についての理解、利用できるサービスや医療支援の知識が少なく、不安が強いため、カウンセリングでそれらの知識の提供が大切である。筋疾患・神経性疾患の相談者は、将来のリスクや予後の情報提供をカウンセリング担当者に望んでいないことがわかった。それに対し、代謝疾患の相談者は、将来のリスク説明を求めていた。また、子どもが遺伝性疾患である場合、相談者は子どもの疾患に対して、不安や懸念、罪悪感を強く抱いており、将来のリスクや予後の情報提供を希望しているため、その点に焦点を当てた心理的サポートが必要である。性差では、男性は女性より遺伝カウンセリングをうけることの理解が少ないが、医療支援を受ける方法の理解は女性の方が低かった。また、年齢は若い相談者の方が、疾患への統制感が低く、将来のリスクや予後の情報提供を望んでいることがわかった。今後の遺伝カウンセリングにおける心理的支援を充実させるための有益な情報が多く得られた。
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