研究課題/領域番号 |
26590161
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研究機関 | 青森中央学院大学 |
研究代表者 |
加藤 澄 青森中央学院大学, 経営法学部, 教授 (80311504)
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研究分担者 |
斉藤 まなぶ 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (40568846)
角岡 賢一 龍谷大学, 経営学部, 教授 (70278505)
中村 和彦 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80263911)
飯村 龍一 玉川大学, 経営学部, 教授 (80266246)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 統合失調症 / SFL / schizophrenia / 機能言語学 / 言語分析 / コーパス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、統合失調症の患者を対象に、その言語行動の音声データを収集し、言語分析を行って、その結果をコーパス化することである。コーパス化された言語分析結果を、統合失調症の臨床において役立てることを最終目的とする。特に10代後半から20代にかけての統合失調症患者と自閉症スペクトラム障害の患者に、共通した症状が顕現するケースがあるため誤診が見られるが、コーパスで得られた精緻な言語行動のマッピングを基に、言語面から明確な診断補助ガイドラインを提示することで、誤診防止に役立てることを目指す。 平成26年度は、統合失調症と自閉症スペクトラム障害の各患者10例に対し、パイロット・スタディを実施し、この結果に基づいて、言語実験パラダイムを組み立てた。現時点では各患者に、5種から6種のパラダイムを約30例に実施し、のべ150例以上の音声データが集まっている。年齢層は10代から20代の患者が中心である。 音声データ収集は、弘前大学医学部附属病院神経科精神科の外来及び病棟、また他協力2病院の外来と病棟の患者を対象にしている。 これらの音声データは、分析準備のための下処理として (1)音声データを逐語記録にする、(2)それぞれのデータに、疾患のレベル・症状・その他最低限の臨床情報を付与する、(3)逐語記録の内容に関しては、個人が特定できる情報をすべて記号化もしくは文脈を変えて、語彙-文法情報だけを残す、といった作業が進められた。 この作業と並行して、コーパス内臓辞書の作成が進められた。この辞書作成は、Systemic Functional Linguistics (以後、SFL)に基づいて、日本語への適用のための理論整備を進めながら行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、(1)パイロット・スタディに基づいた実験パラダイムの考案、(2)実験パラダイムに基づいた患者の音声データ収集の実施、(3)分析準備作業計画のためのデータ下処理、(4)コーパス内蔵辞書の作成という4点について実施をはかった。まず、(1)の実験パラダイムは、(1)言語的相互作用における言語資源使用上の偏りを特定するするための面談項目の実施、(2)PANSS (Positive and Negative Symptom Scale)の項目を参考にした陽性症状時の病識を問う面談項目の実施、(3)感情表現の偏りを見る課題の実施、(4)状況把握の偏りを見る課題の実施、(5)物語の創作能力とナラティブの結束性をみる課題の実施、(6)ライフ・ヒストリーに関する口頭作文の課題の実施、の6つ観点から組み立てた言語実験パラダイムを実施している。しかしこれらのメニューは、今後、疾患の言語行動の解明に応じて、変更・修正をはかることを視野に入れている。 (2)の患者の音声データの収集であるが、年間30例、のべ150例ほどを収集できたのは、かなりの成果と言える。患者数が無尽蔵にあるわけではなく、また、同意が得られた患者のみが対象となるため、このデータ収集量は、かなりの成功を収めているとみてよい。 (3)については、膨大な量の音声データの逐語記録を作るにあたり、難点は人手不足である。個人情報を扱うため、バイトの人選は慎重に行わなければならず、見合う人材を見つけるのに難儀している状況である。従って、作業も遅滞している。 (4)のコーパス内臓辞書の作成に際しては、膨大な量のマンパワーが不可欠で、現在、人材確保に難儀している状況である。結果、遅滞が生じている。 26年度の未実施の課題は、健常人の音声データ収集である。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、音声データの収集を継続し、データ量をさらに増やす方針である。合わせて、データの下処理を進める。さらに、健常学生の音声データ収集にとりかかる。 またコーパス内臓辞書を年度内に仕上げる。精緻さをどのレベルに置くかによって、作業進行速度が変わってくるが、可能な限り高レベルの精緻さを目指したい。コーパス内臓辞書は、SFLの理論に基づいて作られるが、そもそもSFLが英語を基にして組み立てられた言語理論であるため、日本語への適用をはかるためには、日本語に適した理論立てにしなければならない。これについては、同じSFLの研究者である分担者の玉川大学飯村龍一教授、龍谷大学、角岡賢一教授を含むSFL研究会の他メンバーと理論構築を行いながら、辞書作成作業を行うことになる。辞書の完成を待って、アノテーション作業を開始する。 27年度後半からは分析を開始する。SFLに基づき、1)モダリティ、2)評価表現、3)過程構成 4)ムード・発話機能、について分析を開始する。こちらも上述の理由から、SFLを日本語へ適用するには理論整備が必要で、上述SFLの研究会での勉強会を活用しながら、慎重に理論構築を進める。特に1)のモダリティに関しては、統合失調症の言語使用を特徴づける重要な言語資源と考えられ、緻密な理論構成が求められる。 また、27年度は、コーパスに内蔵する統計的結果産出手段の検討に入る。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1に、マンパワー不足によって、謝礼予算を使い切れなかったことである。音声データの収集量は順調であったが、マンパワー不足のために、音声データの逐語記録化とその下処理にかける謝礼予算が余ったためである。患者の個人情報を扱うため、逐語記録化を頼めるバイトの人選は慎重に行わなければならず、データ量に見合うだけのマンパワーが見つからなかった。同様に、コーパス内臓辞書の作成には、膨大な量のマンパワーが必要であるが、緻密さと根気を要する仕事であるため、学生が長続きせず、こちらもマンパワー不足のため、謝礼予算を十分、活用できなかった。 第2に、健常学生の音声データの収集が、学内の環境が整わなかったために、実施できなかったことによって逐語記録化とその下処理のための謝礼が余ったことである。 第3に、26年度は、代表である加藤がすべて単独で、データ収集を行ったために、謝礼予算がその分使われなかったことである。
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次年度使用額の使用計画 |
第1の理由については、マンパワーの補充をたえず努力することは26年度と同じであるが、少ない人員で長期計画で行わざるをえないことを視野に入れる。第2の理由については、健常学生の音声データの収集を計画しているため、逐語記録化とその下処理の謝礼が発生する。これにはデータ収集へ応じてくれた学生への謝礼を含む。 第3の理由については、26年度を通して、代表加藤が実験パラダイムを組み立てたので、27年度は仕上がった実験パラダイムについて、臨床心理士等の臨床家をトレーニングした上で、音声データ収集の分担化を行う。従って、大きな謝礼が発生する予定である。
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