本研究は、軽度認知障害および軽度認知症の高齢者(以下、高齢者)、介護家族(以下、家族)を対象とし、気分や生活の質を改善させるための心理社会的介入プログラムの開発、その安全性と有用性の検討を行うことを目的とした。研究期間全体を通し、高齢者と家族への介入プログラムの開発を終え、試験的な介入を実施するところまで辿り着くことができた。期間の最終年度においては、家族への介入プログラムの開発者である英国の研究者とコミュニケーションを図り、今後共同研究を行うという形で関係構築を果たせたこと、直接指導を受けることができたこと、そして継続中であった数名の介入トライアルを無事に終了することができた。 高齢者への介入については、全8回の認知行動療法に基づくプログラムを作成し、まずは主に軽度認知障害の高齢者10名を対象にプログラム内容の理解度の確認を行い、実施回数や時間、内容ともに問題ないと判断された。その後、5名の軽度認知障害の高齢者を対象に介入トライアルを実施し、介入後で高齢者の抑うつや不安、生活の質が改善され、参加満足度も高い結果が示された。 また、介護家族を対象としたプログラムは、英国で開発されたSTARTと呼ばれる認知行動療法に基づく心理教育プログラムの日本語版を作成し、これまで10名の家族を対象に介入トライアルを実施した。介入後では家族の抑うつや不安、生活の質が改善され、介護負担感も軽減しており、この結果は介入終了から6ヶ月後の時点においてもおおよそ維持されていた。 研究期間全体で行われた2つの介入プログラムはパイロットスタディではあったものの、介入による効果が示され、介入による脱落、有害事象も発生しておらず、介入の安全性も示すことができた。本研究から、今後増加が見込まれる認知症への対策のひとつとして、高齢者および介護家族への心理学的な支援の可能性を示すことができたと考えられる。
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