心拍変動バイオフィードバック(heart rate variability biofeedback: HRVBF)は抑うつに関わる不安や不眠などの改善に有効であることが示されている。HRVBFの訓練は自律神経機能を高めると考えられているが、一方で症状の緩和に関わる認知的側面の効果については検討が進んでいない。本研究はHRVBFが抑うつに関連した認知処理を調整するかどうか検討した。 平成26年度は幾何学図形に漢字二字熟語(ネガティブ語・ニュートラル語)を重ねた刺激に対する事象関連電位(Fz,Cz,Pz)を記録した(N=17)。刺激語に対するP3振幅を検討したところ、低抑うつ群(N=8)のそれはネガティブ語で大きかった。一方、高抑うつ群(N=9)は刺激の感情価に関係なく増大した。抑うつ者では課題における心的負荷が高くいずれの刺激に対しても多くの処理資源を投入していることが明らかとなった。 平成27年度は刺激の呈示法を変更して検討した(N=13)。はじめにネガティブ語・ニュートラル語をターゲット刺激とするgo/no-go課題を実施した(task1)。刺激語に対するP3振幅は抑うつ得点(BDI-Ⅱ)と正の相関を示し、かつ、ネガティブ語に対する振幅が大きかった。次に、HRVBF条件(6回/分のペース呼吸)またはcontrol条件(30回/分のペース呼吸)を実施した後、再びgo/no-go課題を行った(task2)。高抑うつ者(N=6)ではHRVBF条件でネガティブ語に対するP3振幅がtask1からtask2にかけて減衰したがcontrol条件では変化しなかった。一方、低抑うつ者(N=7)ではP3振幅の変化はみられなかった。以上の結果から、抑うつ者はネガティブな刺激に対して多くの処理資源を投入していること、さらに、HRVBFはこのような認知処理を調整する可能性のあることが示唆された。
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