研究課題/領域番号 |
26590172
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
林 明明 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 成人精神保健研究部, 流動研究員 (90726556)
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研究分担者 |
伊藤 真利子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 成人精神保健研究部, 流動研究員 (20726533)
金 吉晴 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 成人精神保健研究部, 部長 (60225117)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心的外傷後ストレス障害 / PTSD / 持続エクスポージャー療法 / PE / 自律神経活動 / 認知機能 |
研究実績の概要 |
本研究は、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder :PTSD、以下PTSD) に対して有効な治療法とされる持続エクスポージャー療法 (prolonged exposure therapy: PE、以下PE)を行い、客観的指標を用いたPEの治療効果の評価及び治療反応性を予測する因子の検討を試みるものである。測定に適した客観的指標を模索するため、本年度の研究では健常者に対して、A)PTSD等精神疾患の症状やトラウマの有無、B)小型ウェアラブル生体センサ―によるリアルタイムの自律神経活動、C)ワーキングメモリ・記憶・注意等の認知機能、D)質問紙による感情表出の傾向および不安・抑うつの傾向などの測定を行った(研究1)。すべての参加者に対して文章および口頭による研究説明を行い、文章による同意を得た。精神疾患の症状等を尋ねる面接の後、認知機能の測定を行った。また、自律神経活動として、座位安静時および認知機能を測定する課題を負荷とした時の脈拍を測定した。質問紙は、参加者が自分で回答する自記式尺度を用いた。 これまでに16名の健常な成人女性のデータを得ることができた。PTSDの診断がつく参加者はいなかった。ウェアラブル生体モニタSilmeeによる脈波測定の結果から、覚醒中の座位安静時よりも認知的負荷時(Nback課題中)において交感神経が優位状態に導かれる傾向が示されてきている。また、PTSDの症状の一つでもある解離の傾向は、質問紙によって測定された感情表出・不安・抑うつ傾向とは有意な相関は認められなかったが、単語を用いた記憶の認知課題の再認成績とは有意な負の相関を示した。PTSD症状の測定として、記憶課題の成績の使用可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、研究1として健常者を対象に、PTSDの症状等を測定できる指標の模索を行った。その結果、健常者内における認知・心理・生物学的な指標の関連を解析することができた。PTSDの患者群における測定は初年度ではできなかったものの、既に患者のリクルートなどの研究の提携環境を整えており、2か所の協力研究機関と実験手順の調整を行った。所属機関の倫理委員会から研究の倫理申請の承認も既に降りており、研究1のPTSD群および研究2のPE治療の測定もすぐに始められるよう準備を終えている。次年度では直ちにPTSD患者群の測定を始めることができ、また健常者群の参加者を増やして、比較分析することができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、初年度に行われた研究1に引き続き、PTSD患者群の認知機能・自律神経活動の測定、健常者との比較を行うと共に、研究2として研究1で測定された認知・生物学的指標をもって、PTSD患者に対するPE治療効果の客観的評価を行う。PTSD患者に対してPEを行い、治療前や治療間、治療後と経過を追って測定を行う。PEは所定の研修コースを受講してトレーニングを受けた治療者が担当し、研究実施機関または協力研究機関にて実施する。PTSDの症状の改善度を治療反応性として認知・生物学的な指標との関連を解析することで、PEの治療効果の評価に適する指標を模索する。さらに、治療前での感情表出など心理的な傾向や認知機能・自律神経活動が、PEによる症状改善を予測するかの検討を行う。さらに、研究1および研究2の結果をまとめ、学会発表および国際誌へ英文論文を投稿したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究1と研究2のうち、研究2の人件費および参加者謝金として使用を予定していたが、初年度では人件費のかからない研究1のほうが研究が進んだため、人件費の支出がなかった。 また、初年度のみでは学会や論文で発表できるサンプル数に至っていないため、国内外の学会参加や英文校閲などの論文投稿関係の料金支出が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では研究2を中心に進めるため、実験者の人件費や参加者謝金として使用する。また、2年間の研究データを取りまとめて国内外の学会や雑誌に投稿を予定しているため、学会参加費や旅費、英文校閲などの論文投稿料として支出予定である。
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