研究実績の概要 |
本研究では、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD,以下PTSD)に対して有効な治療法とされる持続エクスポージャー療法(prolonged exposure therapy: PE,以下PE)の客観的治療効果測定に役立つ指標を検討するため、PTSD患者と健常者について比較を行った。まずはPTSD患者の全般的知能・全般的認知機能やワーキングメモリ・実行機能、および言語的記憶・注意の偏りや自律神経活動を健常者と比較してPTSDの特徴を確認した。さらに、PTSD群と健常者群の間に差異が認められた変数に関しては、PTSDに特異的な病態に関連している可能性があるため、PTSD群の症状との関連についても検討した。 参加者はPTSD群女性20名(平均年齢38.65歳)、健常者群女性34名(平均年齢37.53歳)であった。 PTSDの特徴として、健常者と比べて全般的知能・全般的認知機能が低く、注意課題への反応時間が長かった。また、PTSD群のみ、言語的記憶課題の正答率が中立語・ポジティブ語よりもネガティブ語で高く、誤再認率も中立語・ポジティブ語よりもネガティブ語で高かった。一方、健常者群では中立語よりもポジティブ語・ネガティブ語に対して誤再認しやすかった。これらの結果から、PTSD患者ではネガティブな情報が偏って思い出されやすく、提示されなかったネガティブな情報についても誤って報告されやすいことが示唆された。 さらに、PTSD患者の全般的知能・注意機能においては、それぞれPTSD重症度との間に有意な負の相関が認められた。言語的記憶課題のネガティブ語への再認率に関しては、再体験症状の重症度と有意な正の相関が認められた。 このように、全般的知能、注意機能、言語的記憶課題でのネガティブ情報への偏りは、PTSDの客観的測定指標の候補として有用である可能性が示された。
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