研究課題
本研究の目的は、世界の言語音のなかでもユニークな日本語促音「っ」を例に、書記システムが音声知覚に及ぼす影響を明らかにすることであった。日本語の促音には、音響的に2種類が存在し、促音部分が無音のもの(例「いっか」)と、摩擦音が持続するもの(例「いっさ」)がある。しかし、応募者らの先行研究では、日本語母語成人はすべての促音を「無音の一拍」として捉えていることが示唆され、これは非母語者であるオランダ人の結果とは異なっていた。本研究では、この予備的知見をさらに発展、深化させることをめざした。平成27年度までには、大学生を対象とした言語間比較研究により、日本語話者は非母語者(イタリア語話者、オランダ語話者)に比べて、実際には無音でない摩擦音促音をも無音ととらえる知覚様式をもつことが明らかとなった。平成28年度の実績は以下の通り。【研究項目1】脳内活動の言語間比較研究: 日本語母語成人の促音知覚の独特の様式の神経基盤を調べるために、脳波(事象関連電位)による検討をおこない、英語話者と日本語話者の比較データを収集、分析した。暫定的な解析結果では、実際には無音でない摩擦音促音部への応答に相当する時間帯において、日本語話者では英語話者よりも脳電位振幅が有意に弱く、「無音」ととらえる知覚様式との関連が示唆された。【研究項目2】発達研究: 上記のような日本語話者の知覚様式は、促音を音響特性によらずすべて「っ」と表記する書記学習によって形成されているのではないかという仮説を検証するために、文字習得前後の子どもについて実験的検討をおこなった。その結果、ひらがなを覚えかけの5~6歳の子どもは促音の書き取りが苦手であること、また促音の書き取りテスト、およびかなの読みのテストの成績が高い子どもほど、日本人の大人同様に「っ」を無音の一拍と混同する傾向にあるという、興味深い結果が得られた。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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