研究課題/領域番号 |
26590179
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
桐田 隆博 岩手県立大学, 社会福祉学部, 教授 (20214918)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 乳児の泣き声 / 親 / ストレス / 感受性 |
研究実績の概要 |
乳児の泣き声は、親の養育行動を引き出す信号としての機能があり、泣きに対する適切な養育行動は、乳児と親双方の安定的な愛着を形成する基礎となる。しかし、統制不能な乳児の過剰な泣き行動(excessive crying)は、しばしば、親の育児に対する混乱、不安、不全、拒絶といったネガティブな感情を喚起し、育児ストレス亢進させる大きな要因となることが指摘されている。したがって、泣き声に対する感受性を測定し、泣き声に対する耐性や対処可能性について自覚することが、実際に育児をする上で重要となる。本研究は、乳児の泣き声に対する感受性に関する測定尺度を作成することを目的とする。 予備的な調査によって、泣き声に対する感受性は、泣き声が生起する環境により変動することが明らかになった。すなわち、一般に乳児が泣くことが許容される環境(たとえば、保育園、公園、個人の家など)では、泣き声に対する否定的な感情は生起しにくい。これに対して、乳児の泣き声が周囲に影響を及ぼすことが想定される環境(たとえば、講演会の会場、図書館、映画館、新幹線などの公共交通機関など)では、泣き声に対して否定的感情が生起しやすい。このうち、乳児が泣くことが許容される環境(以下、許容環境)においても、泣き声に対して寛容になれず、「うるさい」・「癇に障る」といったネガティブな感情を持ちやすい人がいる。その一方で、泣き声が許容されない環境(非許容環境)においても、泣き声によって否定的な感情が喚起されない人もいる。 したがって、泣き声に対する感受性を測定する場合、こうした環境要因を測定の支柱にすることが重要であることが明らかになった。今後、許容環境および非許容環境におけるネガティブ感情の高低を規定する要因について検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画では、泣き声の感受性に関わると想定される要因を検討し、実際の質問紙調査によって、主要な要因を抽出する予定であったが、実際には想定される要因の検討段階に留まった。その理由は、泣き声に対する感受性の測定は、それによって虐待行動の可能性も示唆されることから、大変デリケートな問題を含む。そのため、学内の研究倫理審査委員会に申請する研究計画書を慎重に準備することとなり、結果として研究のスタート時期が遅れ、計画通りの進捗には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、今年度に引き続き、泣き声の感受性に関わる要因の検討を行う。そのために、実際の育児場面における泣き行動と、それに対する対処困難な状況について、育児支援を実施している市町村の保健師や開業助産師に聞き取り調査を実施する。これと平行して、乳児の泣き声を収集し、自発的涕泣の物理的特徴を分析し、次年度以降に行う泣き声聴取実験の刺激を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究計画には、泣き声感受性に関わる要因検討をした上で、質問紙調査および泣き声収集を実施する予定であったが、質問紙調査および泣き声収集は実施できなかった。今年度の研究助成金の残金は、主として質問紙調査の実施および泣き声収集に必要な謝金に相当する。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、泣き声感受性に関わる要因を検討した上で、実際に質問紙調査を実施し、泣き声感受性尺度の主要因について検討し、併せて泣き声聴取実験のための泣き声を収集することとする。
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