前年度までの研究によって、乳幼児に対する泣き声不快度は、乳幼児が泣くことが許容される環境においては、大きな個人差は見られないのに対して、泣くことが抑制される環境においては、個人が有する感情伝染性、共感性、乳幼児の抱っこ経験等に応じた個人差が見られることが示された。そこで、個人差が大きく現れる抑制環境における不快度得点と実際の乳児の泣き声に対する生理的反応および認知的評価の関連性について実験的に検討した。 本実験に先立って実施した質問紙調査において乳幼児泣き声不快尺度に回答し、後日実施する泣き声聴取実験にも参加する意向を示した学生の中から、抑制環境における不快得点(5項目平均) が 2.8 以上(不快高群)あるいは2以下(不快低群)の者を対象とした。両群にはそれぞれ15 名の女子学生が参加した。ギャッチチェア上で半座位となった参加者の左手人差し指の先端にピエゾ式パル ストランスジューサを装着し、ヘッドフォンを装着したまま無音の状態で2分間、加速度脈波を測定し(統制条件)、続いて、泣き声を2分間提示し、その間の加速度脈波 を測定した(実験条件)。加速度脈波測定後に、SD 法(5 件法)を用いて聴取した泣き声に対して、評価性、力量性、活動性、不快度および共感度の観点から評定を行った。 実験の結果、泣き声不快低群・高群どちらにおいても、泣き声聴取直後に脈泊が増加し、聴取時間の後半にかけて徐々に減少することが示されたが、泣き声聴取による脈泊変動に群間差はないことが明らかになった。その一方で、泣き声不快高群の参加者は、実際の泣き声に対してもネガ ティブな評価を与え、不快な感情を抱き、泣き声をより活動的と捉え、乳児に共感を感じにくいことが明らかになった。これらの結果は、乳幼児泣き声不快尺度の妥当性の一旦を示すものと解釈された。
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