今年度は虚連合記憶テストに用いる嗅覚刺激を選別するための行動テストを行ったのち、NMDA受容体拮抗薬のMK-801によって虚連合記憶が生じるかどうかを調べた。 まず虚連合記憶テストで用いる予定の嗅覚刺激について、選好性の差がない刺激ペアを選定するための選好性テストを行った。3種類の刺激ペアについてテストを行った結果、ヘキサン酸メチルと酢酸イソペンチルのペアが最も適切であるということが示唆されたため、以下の実験ではこのペアを弁別刺激として用いた。 次に、このペアが虚連合記憶テストの弁別刺激として用いるのに妥当かどうかを検証するために、自発的物体弁別テストの手続きを応用し、この2種の刺激に対する弁別テストを行った。弁別率(=新奇刺激への探索時間/両刺激の探索時間)がランダムレベルよりも有意に高かったため、虚連合記憶テストではこのペアを弁別刺激として用いた。 虚連合記憶テストは見本期、干渉期、テスト期の3つのフェーズからなっていた。見本期ではオープンフィールド内に嗅覚刺激Aを塗布した物体Xを4つ置き、ラットに各物体を自由探索させた。干渉期ではプラスチックケージ内で嗅覚刺激Bを提示した。テスト期は、オープンフィールド内に見本期で提示した物体Xと新奇物体であるYを2つずつ置いた。それぞれのいずれかには嗅覚刺激Aを(AX、AY)、もう一方にはBを塗布し(BX、BY)、ラットに各物体を自由に探索させた。MK-801(0.1、0.2 mg/kg)はテスト期の15分前に腹腔内投与した。薬物投与によって虚連合記憶が生じた場合は、単独の物体刺激、嗅覚刺激としては既知であるが、これらが組み合わさった複合刺激としては経験のないBXを既知刺激とみなし、これを探索する傾向が小さくなることを予測した。しかしながら、本研究ではMK-801投与によって虚連合記憶に相当する現象を引き起こすことはできなかった。
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