研究実績の概要 |
本年度は,現在までに蓄積してきた行動実験及びニューロイメージング実験の知見を基に,人間の調性知覚を模した計算モデルを構築した(Matsunaga, Hartono, & Abe, 2015)。具体的には,調性の脳内学習メカニズムは文化間で共通であるという仮説のもとに,誤差逆伝搬法による学習アルゴリズムを備え,かつ,学習前には(特定の音楽文化を前提としない)普遍的な特徴のみを備えた多層型パーセプトロンを計算機上の構築した。そして,そのモデルに西洋音楽の一般的な楽曲群を入力し,西洋音楽の一般的な聞き手による調性知覚を教師信号として与えて学習させたところ,モデルは西洋音楽の子どもが示す調性的感受性の発達過程を正確にシミュレートできることが示された。このことから,人間の調性的感受性の発達過程に関して,以下2つの示唆が得られた。1つ目は,音楽に曝されることで,調性的感受性に関与する神経回路は少しずつ連続的に変化している可能性である。2つ目は,調性的感受性の変化は,あらかじめ決められた年齢的なスケジュールに即しているというよりも,曝される音楽の経験量に依存している部分が大きいという可能性である。
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