2017年度には、第一に、これまで収集したデータを整理・分析し、不登校・ひきこもり当事者の親の会が参加者に与える影響を検討した。その結果、親の会で形成されるネットワークは2種類の社会関係資本を生み出していることが明らかにされた。(1)親の会では、困難をめぐる経験の共有を通じて、集合的なアイデンティティの形成を核にした結束型の社会関係資本を生み出していた。(2)他方で親の会は、会に参加するまでは接点のなかった人びとを結びつける架橋型の社会関係資本もあわせて産出していた。なお、架橋型の社会関係資本は、いま・この場を共有する人びとのみならず、今後、同様の困難に直面しうる想像上の他者にまで拡張しうる潜勢力を有していた。 第二に、親の会の集合的なアイデンティティの特徴を探るために、会とは関わりのない保護者を対象にしたインターネットモニター調査を実施し、不登校に関する認識を、過去に親の会参加者を対象に実施した調査データと対比することで、会への参加者にみられる特徴について検討した。その結果次の3点が明らかになった。(a)親の会の参加者は、非参加者と比べると子どもの不登校をありのままに受けとめ、登校刺激を控える傾向が顕著であった。(b)親の会の参加者は、家族だけで問題を抱えこまずに専門家の力を借りると考える傾向が非参加者よりも強い一方で、専門家だけに任せきりにすれば良いとも考えない点に特徴がみられた。(c)親の会の参加者は、官民の支援機関をさらに充実させる必要があると考える傾向性が非参加者よりも顕著であった。 これらの結果を踏まえると、子育て・教育上の困難に直面した家族が形成する社会的なネットワークは、閉じたコミュニティを形成するのでもなく、個々の家族がそれぞれに問題の解決を専門家・専門機関に委ねるのでもない、適度に開かれた「中庸なケアのネットワーク」を形成しているとみることが可能である。
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