研究課題/領域番号 |
26590207
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宇田川 拓雄 北海道大学, 高等教育推進機構, 研究員 (30142764)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 高等教育 / PFF / FD / 大学教員資格 / 研究者交流、米国 / 大学院カリキュラム / 中堅大学 / ティーチング |
研究実績の概要 |
(1)PFF Initiativeの公式報告書と、Teaching Sociology誌に2004年に掲載されたNorth Carolina State University(NCSU)のPFF Initiative プログラムの評価論文を研究し米国訪問の事前準備資料を作成した。 (2)PFF Inititiaveからの支援を受けたNCSUへの訪問調査を実施した。主要な関係者への聞き取りを行った。PFFプログラムは院生の大学教員準備教育として効果があることが実証され、責任者は功績が認められ、その後、学部長を務めPFFの普及に尽力した。。 (3)カリフォルニア大学バークレー校(UCB)を訪問し、PFF Instituteおよびteaching certificate(ティーチング資格証明)の調査を行った。新たに研修資料がウェブ化された以外、大きな変化はなかった。ティーチング科目が大学院カリキュラムに組み込まれ、大学としてティーチング資格を認定する仕組みが作られていた。PFF修了証明書が院生のティーチング能力保証の役割を果たしている。修了生によれば大学教員採用試験に有効で、就職後はスムーズに授業担当が可能になるメリットがある。 (4)計画していたPFF研究会はFD研究会として開催した。これまでの成果と併せて同僚らと啓蒙書『中堅大学活用術』を出版した。本研究の成果であるティーチャースカラー(teacher scholar)、つまり大学教員は研究者であるとともに教師であり、教師の職務を研究の立場で遂行、改善、高度化しなければならないという知見を実践して書籍出版を行った。 (5)学会報告は日本社会学会と日本教育社会学会2つの学会で報告した。また計画にはなかった学術雑誌『高等教育ジャーナル』(北海道大学)に投稿を行い、採択され3月に出版された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)PFF Initiativeは社会学、数学、生物学のような個々の学問のティーチング改善を支援するプログラムであるが、それは社会学部、数学部など個々の学部の改革にとどまらず当該大学全体のティーチング環境の変容、制度改善を促し、それが米国高等教育全体をカバーしている理念、慣習、制度の全体、つまり「大学文化」の全体の変化を導きつつあることを見いだした。ピンポイントでPFF Initiativeの支援を受けた特定の社会学部大学院のティーチング改革の事例研究を意図していた本研究にとって予想外の発見であった。 (2)NCSUではPFF Initiativeが社会学部を支援したが、その成果は全学レベルの改革に取り入れられ、大学としてのティーチング資格認定制度が作られていた。ティーチング資格は学部レベルではなく大学として、あるいはより上位の制度機関による裏付けを伴ってより効果的に機能すると思われる。なお、平成27年度に予定していたアメリカ社会学会大会における資料収集は平成26年度の開催地がUCB近くのサンフランシスコ市だったため、日程を調整し予定を繰り上げ平成26年度の大会に参加し資料収集を行った。 (3)UCBのPFF 実施担当者とPFFカリキュラムに中堅大学教員を想定したモジュールを追加する共同研究に合意した。 (4)一般教員になじみの薄いPFF研究会ではなくFD研究会を実施し、これまでの研究成果をもとにした書籍『中堅大学活用術』を出版した。今日の大学生のマジョリティーは中堅大学学生であるため、中堅大学をターゲットにした書籍出版は本研究の重要な成果である。 (5)学会発表は日本教育社会学会と日本社会学会の年次大会で研究発表を行った。また研究計画には含まれていなかったが、学術ジャーナルへの投稿論文が受理され出版することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.大学教育に関する学術雑誌Teaching Sociology誌でPFFとティーチング資格関係論文の研究を行い、米国社会学におけるティーチング訓練プログラムの変遷と現状を明らかにする。米国と日本の高等教育の仕組みには似通った部分があり、両国とも大学教育の大衆化にともなう教育改革が進行中である。米国は日本より約20年先行しているので米国の事例を調べることは日本の改革推進に役立つと思われる。 2.PFF Initiativeの社会学分野に対する4つの助成対象大学のうち、残りの3大学のうち訪問受け入れの時期、受け入れ条件について相手方と調整を行い、1つの大学を選んで訪問し調査を行う。10年前に導入されたプログラムが現在、どんな形で機能しているか現地調査を行う。調整がつけば比較のため他国大学の事例研究も行う。 3.大学教員資格認定制度の長所と短所に関する研究については文献研究を行うとともに、学会で成果を報告する(日本社会学会を予定)。 4.本研究の発展として中堅大学に的を絞った研究計画を立案し、科研費に応募する。大学教員のティーチングの主要な対象は中堅大学の、学力が中程度の学生であることを考慮し、そのような学生に何をどんなやり方でどのように教えるのが効果的か、それを行うためには大学院生や現職教員はティーチングについてどんな事柄を知っていなければならないかに関する研究の計画を立案する。これまで大学改革に関する研究で、研究大学と中堅大学を区別して行われた研究はほとんどないため、成果が期待できる。
|