すでにいくつかの先行研究によってフランスの80年代からの中等教育の大衆化がすべての階層に等しく作用して来なかったことは明らかにされている(Beaud; Prost; Merle; 園山 2016a)。たとえばルメールによれば管理職の保護者を持つ生徒は、中学生の15%を占めるだけだがグランゼコール準備級 第1学年に55%が在籍する。その逆に、労働者の生徒は中学校に、38%いたはずが9%しかグランゼコール準備級に進学していない(Lemaire 2008)。あるいは、理系普通バカロレア取得者のグランゼコール準備級進学率は、富裕層は非富裕層の3倍である(Lemaire 2004)。学歴上昇は見られても、庶民階層の生徒がより困難を抱えていたり、低い進学率がみられたり、職業系の教育課程に追いやられている。またデュリュ=ベラが指摘するように、学業困難は初等教育段階から始まることも多くの研究から得られた共通の課題である(Duru-Bellat 2002)。こうした一連の研究は、階層格差や性別は進路決定過程において生み出されているということも指摘している。特に進路研究の第一人者であるベルテロ(Berthelot 1993)は、生徒や保護者が希望する進路と学校側の提供する選択には「ズレ」があるとする。つまり進路指導における不平等の問題があげられている。第1に同一の成績においても、出身階層や性別における進路選択の違いがみられること、第2に学業成績以外に出身階層や性別に応じた進路指導があげられている。第3に、教育環境の違いである。学級、学校、地域における選択可能性に違いがあることが指摘されている。こうした進路選択、決定過程において留年の経験の有無が1つの大きな要因となることも明らかで、留年率は減少しているとはいえ、依然として学業達成の鍵を握っていることは本研究より明らかとなった。
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